「FIFA 11」エグゼクティブプロデューサー牧田和也氏ショートインタビュー
幅広いユーザーが遊べる“リアル”なサッカーゲーム。その工夫やオススメの遊び方を聞く



10月20日収録



 エレクトロニック・アーツ株式会社は10月21日、プレイステーション3/Xbox 360/PSP用サッカーゲーム「FIFA 11 ワールドクラスサッカー」を発売した。米国・欧州ではスポーツゲームの最速販売記録を打ち立てた本作は、シリーズを通じて蓄積されてきた改善と新規要素により、非常に高い完成度を誇るサッカーゲームとなっている。目玉となるのはゴールキーパーを含む全22人の選手を22人のプレーヤーが操作して対戦できるオンライン機能だが、AIの挙動、選手の個性、アニメーションなど、試合内容そのものの進歩も著しい。

 弊誌では、本作の発売に合わせてエレクトロニック・アーツが東京・赤坂の東京ミッドタウンにて開催した発売記念イベントの会場で、EAカナダにて本作のエグゼグティブプロデューサーを勤める牧田和也氏にインタビューを行なった。「FIFA」シリーズは恐らく日本人がプロデューサーを務めるゲームタイトルとして最も売れている作品と言えるが、その作り手として牧田氏がどのような哲学を作品に吹き込み、作品を成功に導いたのか、工夫のポイントを中心にお話を伺った。




■ ゴールキーパーの操作を実現。その上で手応えのある、誰でも遊べるサッカーゲームを

インタビューに答える牧田和也氏
発売記念イベントで紹介されたゲームの特徴

──今日のイベント(岡田氏の世界選抜によるシミュレーションマッチ)ではゴールが決まってよかったですね。

EAカナダ 牧田和也氏:そうですね、事前のシミュレーションではゼロ(対)ゼロが多かったんで本当によかったです(笑)。

──早速ですが、今回の開発で特に力を入れたポイントを教えてください。

牧田氏:まずゴールキーパーをプレイできるようにしたことで、11対11を実現したことですね。ゴールキーパーに関してはオフラインもオンラインも両方楽しめますので非常に大きい要素です。それから「パーソナリティ+」という選手の特性を出すという要素。あとはキャリアモードですね。あとプレゼンではカバーしてなかったのですが、選手の顔が、新しいシステムを使ってスキャンしています。まだ全選手ではないのですけど、有名チームを中心に、選手の見た目がそのままゲームで表現できてきていると思います。

──中でもキーパーはこれまでとは全く違うポジションですよね。これはどういうアプローチで開発をされたんでしょうか?

牧田氏:そうですね、ゲームの中でキーパーの役割というのはすごく特殊で、ミスひとつで試合が壊れてしまうという。それを如何に、そうならないように作るかというのが難しかった部分です。実は去年の段階でキーパーを動かすというのは可能だったんです。でもゲームには含めなかったんですね。というのは、レスポンスやカメラアングルのチューニングがとても大切で、思うように動けない、思ったタイミングでジャンプできないというものを出すわけにはいかなかったというのが理由です。

──再現したいのは現実世界と同様のキーパーの動きということなんでしょうか?

牧田氏:やはりゲームとして面白いかどうかという部分が大事ですね。これからももっと追求していかなくてはならないところだと思っています。

選手の顔は本物そっくり
球際の競り合いが非常に激しく展開するのも本作の特徴だ

──選手の顔については、EAオンラインに「バーチャルプロ」用の写真から顔の3Dモデルを作るシステムがありますが、あれと同じものなんですか?

牧田氏:いえ、あれとは別のシステムですね。今回は実際に現地に行って、選手のスキャンをとって、それをゲーム用のデータにするという方法でやっています。

──何人くらいの選手でそのシステムを使ったんでしょう?

牧田氏:チーム数としては6チームですね。チームの選定については、なかなか選手達のスケジュールが合わないこともあって難しい部分ではありました。カカやルーニーといったパッケージの選手、チームについてはしっかりやりました。

──なるほど。選手の見た目といえば、今回「パーソナリティ+」要素の一環として、身長、体重といったパラメーターがより良く体型に反映するようになったということですね。それはゲーム性にも影響するようになってるんですか?

牧田氏:ええ、ゲーム性に影響するように作りたかったですし、実際にそうなっています。フィジカルプレーのときに如何にそれが反映されるかという部分ですね。大きい選手と小さい選手の違いという。

──なるほど、ただ見た目やパラメーターが変わるだけではないんですね。

牧田氏:はい、昔からその基本的なシステムはあったんですが、見た目の3Dモデルとしては基本のものを単純に引き伸ばすようにしかできなかったんです。そうするとやはり全体が均等に伸びてしまうので、おかしい部分が出てきてしまうんですよね。でも実際は、顔の大きさは小さくても胴が長くないといけなかったり、そういうことをできるようにするためにモデルを作り直して、ということをやってきました。

──そうすると単に力強さのパラメーターが高い低いだけでなく、身長体重というのも物理的な計算に入ってくるわけですか。

牧田氏:もちろんそうです。

──そうすると「バーチャルプロ」で、「スピードが速い方がボール取られないはずだ」と思って体重を低くしてしまうと……。

牧田氏:ええ、フィジカルプレーですぐにボールを取られちゃうようになりますね。

──なるほど。ゲームのほうは既にかなりプレイさせていただいているんですが、今回のゲームバランスとしてはかなりゴールが決まりにくいという部分がありますね。明らかにディフェンダーの動きが良くなっているというか。

牧田氏:そのあたりは調整項目としてやってきた部分なんですども、確かに今回ディフェンダーのプレスがかなり激しくなっています。ディフェンダー個々の能力表現という部分も大きいんですよ。実際、オンラインで主にプレイされるチームはマンUとかチェルシーとかの強いチームが多いのですが、そういうチームはディフェンダーの能力も高いのでプレスがきつく、点が入りにくいという状況が生まれるんですよ。

 でも2部リーグ3部リーグといったチームでは、全然試合展開が変わるんです。自分のプレイがやりやすくなるという部分があって、是非みなさんにも試してみて欲しいですね。ゲーム的にはそういう差が生まれていますので、遊び方も変わってくるということになります。

──ディフェンスに関連して、今回はパスが相当通りにくいというか、前作では簡単だったシーンもなかなか手強くなってますよね。そのあたりゲーム的にさじ加減が難しい部分もあったのではないでしょうか?

牧田氏:そうですね。そこはもうプレイテイストをして、いろんな意見を聞いて調整しています。最初はもっと難しかったんですよ。ただ、パスをどうゲーム的に活かして面白い要素にするのか、という問題がサッカーゲームではとても大事だと思いまして。今までのサッカーゲームのようなパスのシステムですとそれができないので、新たなチャレンジということで今回突き詰めてやってみたところなんですね。これもまだまだ改良の余地があるところだと思いますが、我々が当初試していたものよりは全然良いものになっていると思います。

──なるほど。今回、デフォルトのアシストパスが使いづらいので、マニュアルパスに目覚めるユーザーも多くなるかもしれませんね。

牧田氏:そうですね。やはり、いろんな遊び方をしたいというお客さんも多いんですよ。数が出れば出るほど、幅広い意見を聞くことになります。そうするとやはり、シリーズを通してプレイしてくださっているハードコアのユーザーさんの要求に耐えられるものでないといけないですし、同時に初めてのユーザーさんには難しすぎるものであってはいけない。そういった多くの意見をもとに如何に誰でも遊べるゲームにできるかというところが課題ですので、幅広いオプション項目で好みに調整できるようにしています。



■ 話題はオンライン対戦からリアルサッカーまで。将来の「FIFA」は1人称視点にもチャレンジ?!

クラブマッチで世界のチームと是非対戦してみて欲しいという牧田氏
特定選手には選手固有の動きを設定し、個性を再現

──オンライン対戦が今回ついに11対11でできるようになりましたが、それに合わせてプロクラブのインターフェイスもガラリと変わって、相当力が入っているなと思いました。開発としてもプロクラブで遊ぶというのはイチオシですか?

牧田氏:ええ、そこは要望が非常に多かったんですよ。実際、データで見ると「どうやってやったらいいかわからない」という人や、もっと手軽に遊びたいという人も多くて。クラブを作っている人はすごく多いんです。でも使われているクラブはすごく少ないんですよ。それはなぜかというと、どうやって誘えばいいかわからない、どうやって入ればいいかわからないという、ゲームの作り方の問題があったんですね。ただ、そこは今までのシステムだと難しいところでしたので、それを改善するために大幅に手直しをしました。

──前作ではクラブマッチを始めるまでにボタンを10回くらい押してましたが、今回は3回押すだけでマッチロビーに行けるようになりましたね。

牧田氏:ええ、そこは非常に重要なところだと思いますし、まだまだ改善の余地があるというふうにも思っています。日本の優れたインターフェイスのゲームと見比べてもそうですし、我々としてもこれからもっと改善していくべきポイントですね。

──試合に使う「バーチャルプロ」もかなり強化されましたね。

牧田氏:そうですね、そこはやはり前回と同じでは面白く無いですし、今回は11対11ということでゴールキーパーもできる、そのためのチャレンジも用意して、時間をかければかけるほどいろんなものが発見できるものにしたいというふうに考えました。

──試合内容としては、今回は選手の姿勢やボールの置きどころといった、実際のサッカーに近い緻密なプレイを要求される部分がクローズアップされているように思います。そこでリアルサッカーとの関連で、さきほどのプレゼンで牧田さんが「ペトル・ツェフが試合のシミュレーションに使っている」というふうにおっしゃっていましたが、そのような例について教えてください。

牧田氏:実際私がこれまでに具体的に聞いたのはゴールキーパーのペトル・ツェフ選手についてだけなのですが、彼は実際に「FIFA 11」を使って、コーチと一緒に、どういうポジショニングをしたらいいか、という話をしているといいます。実際そんなことがあって、他のヨーロッパリーグの選手にも遊んでいただけているというのは聞いてます。日本の選手でもそうですかね。試合の前とかに寮で遊んだりですとか。

──プレミアリーグの選手は結構「FIFA」派のユーザーが多いと聞きます。

牧田氏:そうですね。今回、「FIFA」シリーズのブランド元であるEA Sportsがプレミアリーグのテクニカルスポンサーになりました。日本でも衛星中継の試合を見ていただければわかると思うんですが、選手のパス成功数であるようなスタッツが画面に出るときにEA Sportsのロゴがつくはずですので、いちど試合を観て確認してもらえたら嬉しいです。

──ちょっとゲームからは離れてしまうんですが、リアルサッカーで最近の日本人選手の活躍はどうご覧になっていますか。

牧田氏:ワールドカップ以降、海外でプレーする選手が多いですし、本当に4年後が楽しみだなという感じはしますね。海外でプレーする選手って、もちろんフィジカルや技術も優れていると思うんですけど、それ以上にメンタル面がすごく鍛えられているんだと思います。先程岡田さんに、岡田さんのチーム作りでは何が1番大事ですかというふうに聞いたら、いかにチームがいい雰囲気、勝てる空気を出せるか、そこではやはりメンタル面の力が大きいという指摘をされていました。そこは海外でいろんな経験をされていると生きてくるんじゃないかなと僕は思うんですよね。

────特にひいきの選手はいますか?

牧田氏が見るのが好きだというメッシ選手。現代サッカーを象徴する特別な選手ということもあり、ゲーム内でもいろいろと特別扱いされているようだ

牧田氏:そうですね、ひいきというか、僕はメッシの試合を見るのが好きですね。人とは思えない動きをしますからね(笑)。彼ひとりいることで、やはり華があるというか、やっぱりすごい選手だなと。

──すごいスピードで何をするかわからないという(笑)。そういう彼の動きをゲームで再現するというのはかなり難しいんじゃないですか?

牧田氏:そうですね、やはりその部分は力をかけました。彼特有の動きというのがあるので、それをゲーム内で特別に再現しています。彼用のドリブルなどのアニメーションがあって、そのデータは他の選手では使われないというものです。

──例えば「バーチャルプロ」でドリブル能力を最大まで上げてもリオネル・メッシの動きにはならないと。

牧田氏:ええ、ならないです。他にはクリスチアーノ・ロナウドやカカ、ルーニーといった選手に固有の動きを割り当てています。他の選手についても、パラメーターの一種である「特性」という形でそれぞれの個性を出すようにしています。

──なるほど。まとめとして、今後「FIFA」シリーズを進化させていくとすれば、どんなことをやりたいと思っていますか?

牧田氏:ここからの進化ですか。やりたいとすれば、ゴールキーパーの目の視点で動かすということをやってみたいですね。でもそれをやってしまうと、ボールがどこにあるか全然見えないというか、技術的にはやれるんですけどゲームにならないというか(笑)。

──3画面表示とか、新しい表示デバイスなどがあれば。

牧田氏:というものがあればアリになるかもしれませんね。そういうことができたら面白いかもしれないと思っています。

──最後に、いよいよ発売ですが、日本のプレーヤーの皆さんにひとことメッセージをお願いします。

牧田氏:世界に負けないで欲しいですね。オンライン対戦ができますので、是非遊んでもらって、練習してもらって。そして日本人のクラブチームを作って世界のチームと対戦ということにチャレンジしていただければなと。やはり日本のユーザーさんのゲームの技術力って世界的にも高いと思いますので、それを世界に見せつけてくれれば面白いかなと思います。

──ありがとうございました。




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(2010年 10月 22日)

[Reported by 佐藤カフジ]