NCJ、西本直樹運営プロデューサーに「アイオン」の今を直撃(前編)
BOTやアカハックなど、待ったなしのセキュリティ対策を実行中

9月28日開催

エヌシージャパン本社



 エヌ・シー・ジャパンが運営している韓国NCsoftのMMORPG「タワー オブ アイオン(以下、アイオン)」。羽を持つ2つの種族、天族と魔族に分かれての対人戦や、モンスターとの大規模バトルが楽しめるというオンラインゲームで、開始前から多くの期待を集めつつ7月17日に正式サービスが始まった。

 しかし、サービス開始当初から、ゲームサーバー内にはBOTが氾濫し、アカウントハックなど多くの問題が起こり、公式掲示板が紛糾する一幕もあった。その上キャラクター作成制限のために好きなワールドにキャラクターが作れない問題もあった。こうした状況は、正式サービス直後にKeyCryptやセキュリティカードといったセキュリティ対策が導入されたり、9月18日には全サーバーでのキャラクター作成制限が解放され、ようやくすべてのワールドでキャラクター作成が可能になるなど少しずつ改善の方向に向かっているが、韓国最大のメジャータイトルとしては甚だ後味の悪い正式サービススタートとなった印象は否めない。

 そうした中、10月13日には、ユーザー待望の初の大型アップデートとなる、Episode 1.5「龍族の侵攻」が実装される。「龍族の侵攻」はサービスが先行する韓国では既に実装されており、日本でも実装が待たれていた期待のコンテンツだ。低レベル帯はより敷居が低くなり、ビギナーでも遊びやすくなるように修正される。中高レベルユーザーに対しては多数のクエストも追加されるほか、中~高レベル向けの新インスタンスダンジョンや、新たなグレードの装備品など多数の要素も追加される。

 今回のインタビューでは正式サービス直後の躓きの具体的な内容と現況、そして今後の対応について。それからEpisode 1.5「龍族の侵攻」の内容とその抱負について「アイオン」の運営プロデューサー 西本直樹氏に話を伺った。

 2時間超のロングインタビューとなったためインタビューは前後編に分けて掲載する。前半の今回は、アカウントハックやBOT、RMTなどの問題について、現状認識や改善策を聞いた。後半のインタビューでは、「龍族の侵攻」の各コンテンツや、付随して行なわれるバランス調整など1.5アップデートの注目点を語ってもらった。是非合わせて読んで欲しい。



■ keyCryptの導入でアカウントハックは一応の収束へ

アカウントハック問題は解決にむかいつつある、と西本氏

――インタビューをお願いした時に比べると、アカウントハックの被害は落ち着いてきたように感じますが、現状の様子を教えてもらえますか?

西本直樹氏: アカウント盗用については、先日KeyCryptが入ってからだいぶ落ち着いている感じです。1週間で10件以下になっています。

――原因は判明したのですか? 公式HPが怪しいという声もありましたが

西本氏: 弊社のパワーウィキや公式サイトからというのはユーザーさんの掲示板で指摘されていましたし、公式サイトでも話されていましたが、調査した結果、一切そういう事実はありませんでした。これは1回だけでは信憑性に欠けますから、期間や方法等を変えて3度調査しました。その結果、弊社のサイト内からではないことがはっきりわかりました。

――ネットカフェからという話もありましたが

西本氏: ネットカフェでは、リカバリーソフトというものでセキュリティ管理がされており、弊社ではネットカフェ公認店を認定する際、厳重にそういった店側のセキュリティもチェックし、アカウント盗用が発生しないよう努めています。また、弊社ネットカフェ担当が主管となって、更なるセキュリティの向上を目的として、各ネットカフェ事業者様と連携した活動を行なっていく計画が始動しております。個人所有のPCでは無い為、よりアカウント盗用に関して不安に思われる部分があるかと思いますが、「アイオン」に限らす、弊社タイトルに関してネットカフェを安心してご利用できる環境を提供できるよう進めています。

――では原因はどこにあるのでしょうか?

西本氏: 1番の原因は、ActiveXの脆弱性であるとか、FLASHの脆弱性とか、この間ATOKにもありましたけれどそういった周辺ソフトです。あとは外部のウィキですね。FLASHやActiveXはアップデートすればすでに対策はされているのですが、それ以前にアカウントハックされている方がいらっしゃって、それが「アイオン」がローンチした後に活動を始めたというケースが多いと推測されます。

――セキュリティカードが導入されますが、これは「リネージュ」でも使われていますね。

西本氏: 「リネージュ」と「リネージュII」で使われています。32種類4桁の数字がランダムで組み合わせになったものがありまして、お客様1人1人で組み合わせが違います。これを使ってログイン時に求められる番号を入力して認証が通るという形になります。

――セキュリティカードをアイオンに初期から入れなかった理由はあるのでしょうか?

西本氏: そもそも、韓国と日本ではセキュリティのシステムがまったく違っているのです。韓国ではセキュリティカードがなくて国民番号であったり、携帯認証だったり、そういう国のシステの違いがあるのです。「アイオン」は基本的に同一クライアントで全世界でサービスを行なうというポリシーですので、ローンチの時期には韓国バージョンと同じでセキュリティカードは入っていませんでした。アカウント盗用の問題というのは、弊社だけではなくて他社様のタイトルでも起こっていると思いますが、「アイオン」は規模が大きいので特に目立っている部分もあります。どちらにせよ、影響が大きいということでかなり以前より開発に相談して、早急に対策を入れることになりました。

――問題が見過ごせないレベルになったという事ですか?

西本氏: そうですね。そもそもローンチ後にIDとパスワードを盗まれるというよりも、去年の段階や今年の早い段階で既に盗用されていて、それが使われずに寝かされていたというケースが我々が思った以上に多かったですね。ただ、ここで言うIDとパスワードは弊社のサービスのものとは限りませんが。

――「アイオン」以前に既に仕込まれていたという事ですか?

西本氏: 既に仕込まれて、ハッキングする業者にデータベース化されているようです。他のタイトルと同じIDやパスワードを使用したり、そのパスワードの変更をせずにそのままにしていると、例えばFLASHとかActiveXのアップデートをしたとしても、そのあともう1度パスワードを変えないとそのまま使われてしまうというケースがあり、そんなケースが予想より多かったです。

――ゲーム内でもパスワードを変更してくださいといったメッセージが定期的に流れていますが、それが予防策としては1番有効なのでしょうか?

西本氏: まず周辺のソフトウェア、ActiveXやOSなどですが、そういったものを常に最新のバージョンにアップデートしていただいて、パスワードを定期的に変更するというのが1番の防御策だと思います。



■ RMT業者からのメールについても、早急に対策を入れる予定

ワールドの解放が遅れたのは、セキュリティ問題への対応を優先したから、と西本氏
ワールドが解放されたことでBOT問題が再燃しつつある

――いままでずっとサーバーを解放されなかったのは、どういった理由があったのでしょうか?

西本氏: セキュリティやBOTの件がありましたから、それが落ち着くまでは容易にオープンすることはできないと思っていました。お客様に安心して楽しんでいただくことが最優先ですので安易にオープンするのではなくて、ここはこらえてセキュリティカードの実装の見込みが立った段階や、KeyCryptが入った段階でとか、そういう段階で開こうと思っていました。お客様からも「友達とプレイしたいので何とかできないか?」といった要望も多かったのでずっと心苦しかったですが、やはりセキュリティ強化を最優先にしました。

――サーバーが解放されて、またBOTが増えてきましたが、BOT対策の現状についても教えてもらえますか?

西本氏: BOT対策は初心者のゾーンを以前より重点的に見るようにはしています。しかしながら、まだ多い状態ではあるなと認識しています。

――無料体験版を規制した時、一時的に減りましたが、無料期間に入ってくるBOTが多かったのですか?

西本氏: 多かったですね。もちろん有料でやっているBOTもいます。特徴的なのは、3カ月課金のような長期課金はまずしません。リスクが大きいですから。ですので、無料期間をなくして、3カ月決済の人が友達を紹介できるようなシステムにしました。3カ月課金に時間制限がないのもBOTが課金しない点とユーザーの利便性を考慮した結果です。

――ペース的には今も1日何千アカウントという形でBANしてるのですか?

西本氏: そうですね。最近は、ゲーム内でRMT(リアルマネートレード)の広告を目的とした特急便が増えていますが、BOTやああいったものの対処も含めて、1日数百件から多い時には数千件対応しています。RMT広告が送られてきて、それをリアルタイムで対応するように努めています。

――RMT対策としては、今どういった方策を取られていますか?

西本氏: まずは先ほどありましたRMTの広告は、一斉にたくさんの人に送っている状態なので、それに関連したアカウントをすべて対処しています。BOTに関連しているアカウントも同様です。あとは、以前はRMTチャットが流れてしまっていましたが、あれも今はもうできないように対策を施しました。また、RMTの特急便に関しても、システム的に早急に対応できるように進めています。

――対策はどういった形で入るんですか?

西本氏: まだ今の段階ではちょっと言えないですが、そういった行為には特徴的なログが残りますから、それをベースにすぐに対応できるようなシステムを整えています。

――購入した側の対処は行なわれているのでしょうか?

西本氏: もちろん対処します。購入すれば必ずログが残るので、それがどこにどう繋がっていっているのかまで調べて、BOT業者ごと一斉に対処します。

――運営サイドとしては、RMTが原因のインフレが進んでいるという認識はあるのでしょうか?

西本氏: はい。インフレに関してはBOT、RMTも関係していますけれど、対処をしても金額的なものはなかなか下がらないものだと思います。まだ相場的なものがある程度動く余裕はあると思うので、対処を進めればある程度変動はあると思っていますが。まだ長いスパンで対応することが重要ですが、ギーナのインフレについてはこれから効果が出てくるかなと思います。

――いまは過渡期ということですか?

西本氏 ある程度アカウント盗用が落ち着いてきた段階で、もっとBOT対策に注力できると思います。今まではアカウント復旧中心に動いてきた部分がありますので、これからもっと強くBOT対策であるとか、インフレ抑制をやっていく予定です。



■ 「要塞戦」のクライアント落ちに関しては現在情報を収集中

クライアント落ちのために要塞戦を敬遠するプレーヤーもいる
早期に解決を目指したい、と西本氏

――今他に認識している問題点や、これから改善していく予定のものはありますか?

西本氏: 多いところでは不具合がいくつか残っています。「要塞戦」でクライアントが落ちるという問題が出る方と出ない方がいまして、今詳しく検証中で、原因を特定して対応している所です。今はちょうどユーザーさんから情報をいただいたりして、それを開発側と調整しています。

――CPUがシングルコアよりもデュアルコアの方のほうが落ちやすいといった報告もあるようですね

西本氏: パーツの組み合わせですとか、OSの組み合わせであるという推測は、ある程度はできています。ならない人はまったくならないのですよね。ただスペックが高いからといってならない訳ではないようです。

――今はまだ原因が特定できる所までは至ってないということですか?

西本氏: だいたいは掴んでいますけれど、最終確定はまだしていないです。

――対応はいつ頃になりそうですか?

西本氏: 開発側でどのくらいで修正できるか次第になりますが、近いうちに修正されると思います。コンソールと違ってPCはオープンシステムですから、個人の環境もまちまちですので、どんな状況でトラブルが発生するのかわかりづらいのです。例えばですが、このグラフィックボードは大丈夫なのに、このグラフィックスボードでは落ちるといった場合もありますので、修正に時間がかかってしまう場合もあります。申し訳ありません。

――ワールドの種族の人数比は現在どのような感じですか?

西本氏: ルールがあるので、皆さんがおっしゃるほどには差は開いていません。ユーザーさんの中では天が多いとか天が強いと言われていますが、あれは完全に人数の差ではないです。雰囲気だったり、テクニックだったり、後はログイン率ですね。プレイしているときに魔族が負けていると少ない気がしますが、データを見ると魔族の方が多かったりするのです。自分たちの周りを見て負けているように思っても、違うグループは全く状況が違って逆転していたりするので、全体的なバランスは結構取れているのです。レベル3のレギオンの数で言うと、魔族の方が多いところもありますよ。

――それなのにどうして天族が圧倒的なイメージがあるのでしょうね?

西本氏: イメージとしてはアクティブな感じの人が天族に多いかもしれないです。また、見ていると、天族の方が大きな団体を作る傾向があります。魔族の方は中規模なレギオンがたくさんある感じです。やはり大きな固まりで動く方が強いですから、まとまりが大きい天族の方が強く感じるかもしれません。

――ワールド間の人口比についてはどうでしょうか?

西本氏: 後から追加されたワールドでも、前にあったものよりも人口が多いワールドもあります。多少の差はありますが、それほど大きな差はないですね。

――最後にユーザーに向けてメッセージをお願いします

西本氏: セキュリティの問題とか種族制限の問題もあって、ご不満の点も多々あったと思います。公式掲示板も毎日見ていて、指摘していただいた問題点は真摯に受け止めて早急に改善できるようには努力をしていますので、ご理解いただければと思います。これからも頑張ります。

(後編に続く)


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(2009年 10月 7日)

[Reported by 石井聡]