インタビュー

「SEGA AGES ヘルツォーク ツヴァイ」インタビュー

これをやらなきゃ“メガドライバー”とは名乗れない! RTSの先駆けとなった名作シムがついに復活

【SEGA AGES ヘルツォーク ツヴァイ】

8月27日配信開始

価格:999円(税込)

CEROレーティング:A(全年齢対象)

 セガの名作を“こだわり満載”で復刻する「SEGA AGES」。今回ご紹介するのは、Nintendo Switch用ソフトとして配信するシリーズ全19タイトルの最後を飾る「SEGA AGES ヘルツォーク ツヴァイ」(以下、「ヘルツォーク ツヴァイ」)だ。

 「ヘルツォーク ツヴァイ」は、1989年にテクノソフトが発売したメガドライブ用シミュレーションゲーム。機動歩兵に変形可能な戦闘機を操りつつ、基地で製造したAI兵器をマップ上に展開して敵軍の兵器と戦ったり、中継基地を占領しながら進軍し、敵本拠地を攻撃して耐久力をゼロにすれば勝利となる。兵器は戦車や固定砲台のほかにもバイク、ボートなどさまざまな種類が登場し、CPU軍と戦う1人プレイ、2人対戦プレイの両方を楽しめるのが特徴。現在ではごく当たり前になっている、リアルタイムストラテジー(RTS)のシステムをいち早く導入した作品だ。

【「SEGA AGES ヘルツォーク ツヴァイ」ゲーム画面】

 前回配信された「サンダーフォースAC」に続き、テクノソフト開発タイトルのリリースとなり、「SEGA AGES」シリーズでは唯一となるシミュレーションゲームの配信でもある。なぜ、テクノソフトの配信を続けたのか? そして数あるシミュレーションゲームのなかから、本作を選んだのはいったいなぜなのだろうか? GAME Watchでは今回も配信に先駆けて、「SEGA AGES」シリーズ開発スタッフに突撃取材を敢行。「SEGA AGES」リードプロデュサーの小玉理恵子氏、スーパーバイザーの奥成洋輔氏、開発を担当したエムツーの松岡毅氏に加え、企画を担当した同社の山本裕次郎、橋本享明の両氏、デザイナーの高橋直樹氏、サウンドの工藤索興も参戦。本シリーズのインタビューのトリを飾るにふさわしい、実ににぎやかなインタビューとなった。

 オリジナル版の発売から実に31年。ついに初の移植が実現した「ヘルツォーク ツヴァイ」。今回はとりわけ(今回「も」かもしれないが……)、完成までにはさまざまな紆余曲折、抱腹絶倒があったご様子だ。最後までぜひご一読いただきたい。

※筆者注:本インタビューは新型コロナウイルス対策のため、ZOOMを使用して実施しました。

【インタビュイーのみなさん】
セガゲームスの小玉理恵子氏
セガゲームスの奥成洋輔氏
ディレクションを担当した、エムツーの松岡毅氏(左)と、プラクティスモードのシナリオ・企画を担当したエムツーの山本裕次郎氏(右)
同じく、プラクティスモードのシナリオ脚色を担当したエムツーの橋本享明氏
プラクティスモードに登場する教官のデザインなどを担当したエムツーの高橋直樹氏。
サウンド制作を担当したエムツーの工藤索興氏

移植における最大のテーマは「取っつきにくさの解消」

――本日もよろしくお願いいたします。早速ですが、まずは「ヘルツォーク ツヴァイ」を今回のラインナップに加えた理由からお尋ねします。すでに配信されている「SEGA AGES」シリーズのタイトルはアクション、シューティングゲームが中心ですので、シミュレーション系も加えてジャンルの幅を持たせようという意図があったのでしょうか?

奥成氏: ジャンルもありますが、人気タイトルであるということが大きいですね。「SEGA AGES」ではセガの家庭用、アーケード用の両方から移植タイトルを探していくなかで、それとは別にテクノソフトという選択肢がありました。テクノソフトブランドのタイトルはニンテンドー3DS版の「セガ3D復刻アーカイブス3」のときに「サンダーフォースIII」を収録したのが始まりでした。

 次のNintendo Switchの「SEGA AGES」でも、このブランドを復刻していきましょうとなったわけですが、 「ばってんタヌキの大冒険」(※1) にするのか、それとも 「マイガーデン」(※2) とか極端なところは選ばず、「サンダーフォースIV」と「サンダーフォースAC」が順当に選ばれたという経緯があります。

 確か、「ヘルツォーク ツヴァイ」は松岡さんから提案があったのが最初でしたよね? ジャンルという意味で言えば、テクノソフトのメガドライブ用ソフトはシューティングが多かったので、 「エレメンタルマスター」(※3) よりはこっちだろうと思いがおそらくあったんだと思いますが。

※1……「ばってんタヌキの大冒険」:主人公のタヌキを操作して、敵をパンチやキックで倒していく、1986年にPC-8801/mkII、MSX用ソフトとして発売された横スクロールアクションゲーム。

※2……「マイガーデン」:実在の花や植物が多数登場する、ガーデニングを題材にしたプレイステーション用シミュレーションゲーム。1999年発売。

※3……「エレメンタルマスター」:主人公の精霊使いラディン操作し、魔法を駆使して敵を攻撃する、ファンタジックな世界観が特徴。縦スクロールシューティングゲーム。1990年にメガドライブ用ソフトとして発売された。

――では、松岡さんが数あるテクノソフト製タイトルのなかから、「ヘルツォーク ツヴァイ」を選ぶ決め手となった要因は何でしょうか?

松岡氏: やはり、メガドライバーの皆さんは「『ヘルツォーク ツヴァイ』は、メガドライバーになるための必須科目、通過儀礼だ!」とよくお話をされますし、今までに移植版が一度も出ていないのは寂しいなあと思ったのがきっかけでしたね。実は、私自身はこのゲームがすごくヘタなんです。「ヘルツォーク ツヴァイ」は、ものすごく取っつきが悪いゲームなのですが、このゲームが好きな人はメチャクチャやり込んでいて、「メガドライブで、こんなに面白いゲームはほかにないよ!」とまで言う方もいるんですよ。

 だったら、開発している間に私も上手にならないといけないと思いました。私がちゃんと遊べるようになって、ほかの人にもレクチャーできるようになれば、きっと救われる人がたくさん出てくるだろうと。「メガドライバーになるための通過儀礼だ」と言われながらも、あまりにも取っつきが悪いので、実際に遊んだ人は少ないと思います。

 これをきっかけに、皆さんを沼にどんどん引きずり込んでしまいたいなあと。一度沼にハマルと、もう楽しくて楽しくて、仕事が終わってからも家に帰れなくなっちゃいましたからね私は(笑)。ぜひ皆さんにも沼にハマッていただき、つかみ合いのケンカするぐらいまで燃えて対戦をしていただきたいですね。「ヘルツォーク ツヴァイ」は、そのぐらい面白いゲームだと私は本気で思っています。

――そこまで面白いと断言できるとは! ところで、恥ずかしながら私もそうなのですが、本作をよく知らない、特にメガドライブを持っていなかった読者にとっては未知のゲームではないかと思われますので、「ヘルツォーク ツヴァイ」とはどんなゲームなのか、それからどんな経緯で誕生したゲームなのかを、改めてGAME Watchの読者に教えていただけますか?

奥成氏: 「ヘルツォーク ツヴァイ」よりも先に、まずは「ヘルツォーク」というゲームが1988年にPC用ソフトとしてPC-8801、PC-9801、X1、MSX2の4機種で登場しました。当時としては非常に珍しいリアルタイムシミュレーションで、今の言い方では「エイジ オブ エンパイア」(Microsoft)以来、日本でもメジャーになったRTSの、国内では先駆けとなったゲームでした。おそらく、国内でRTSをプレイしたことがある人はまだかなり少なく、それこそ「ボコスカウォーズ」ぐらいしか知らなかったような、そんな時代に出てきた「ヘルツォーク」ですが、広大なマップの中を上下に飛びながら移動できるプレーヤー機の操作やユニットの生産など、現代まで続くRTSの面白さをうまく表現していました。

 実際に「ヘルツォーク」を遊んだことがあるという方の多くは、今でも強く記憶に残っているのではないでしょうか。特に、MSX2版はゲームバランスが良くて完成度が高かったですね。シミュレーションというよりは、MSX2というハードが得意としていた、アクションの部分に面白さがあったことで盛り上がったのですが、その1年後によりハード性能が向上したメガドライブで、基本ルールはそのままでリメイク的な続編として作られたのが「ヘルツォーク ツヴァイ」です。

 テクノソフトのメガドライブ参入第1弾は「サンダーフォースII MD」で、本作が発売されたのは、その約半年後の1989年12月でした。テクノソフトという家庭用ゲーム業界では見知らぬメーカーやってきて、出したゲームが、自分たちの知らない面白いゲームだったということで、ファンを増やすきっかけにもなったんですね。まだ新しいジャンルでしたし、家庭用のユーザーが多い時代でしたから、メガドライブを持っていてPC版を遊んだことがある人は少なかったと思います。なので「ヘルツォーク ツヴァイ」で初めてこのジャンルのゲームをプレイした方が多く、皆さんルールを必死になって覚えながら遊んでいたのではないでしょうか。

 当時のテクノソフトは、ちょうどPCからコンシューマーのメーカーへと変わっていった時期でした。「ヘルツォーク ツヴァイ」もPC用ゲームの内容のマニアックさや深さをそのまま受け継いでいて、画面から伝わってくる情報が非常に単純化されていたので、ルールがわからない人にとってはなかなか難しいゲームだったんですよね。で、今の松岡さんみたいに、面白そうだけど、ルールがよくわからない状態になってしまったと。

松岡氏: そうなんですよ。その当時、「ヘルツォーク ツヴァイ」を遊んでいた友人たちが、「このゲームで俺たちと勝負ができないようでは、メガドライブを持っている意味がないだろ!」と、さも当然のように煽ってきたんですよ。その悔しさが、今まさに花開こうとしているので感無量です。もうこれを遊ばなきゃ、メガドライバー失格ですよ! 自分で移植版を作っていて、本気でそう思いましたね。

――ナルホド。本作ならではの面白さを、ぜひ多くの人に広めたいという皆さんの思いがすごく強かったわけですね。

奥成氏: 以前からお話をしていますが、今回の「SEGA AGES」では先に配信する19タイトルを決めるにあたって、エムツーさんから「ヘルツォーク ツヴァイ」のご要望があったわけですが、現代ではオンライン対戦ができる「ヘルツォーク ツヴァイ」が望まれる時代だろうと、そんな思いもありました。メガドライブミニの収録タイトルを決めるときにも、「ヘルツォーク ツヴァイ」を入れようかと考えたのですが、「SEGA AGES」であればオンライン対応ができますので、じゃあそちらに譲ろうかなと思って、最終的にメガドライブミニからは外しました。

――オンライン対応ということは、「SEGA AGES」版はネットワーク対戦もできるんですか?

松岡氏: はい、できます!

【ネットワーク対戦中のゲーム画面】
「SEGA AGES」版では、なんとネットワーク対戦も実現!

――メガドライブ版の解析にあたって、何か苦労したところはあったのでしょうか?

松岡氏: プログラム的には、読みやすく組んであったので、特に苦労することはなかったと思います。今回のところは、もうとにかく追加要素の開発に注力しましたので、その作業量がかなりのものでしたね。

奥成氏: エムツーさんから、「ソースデータはありませんか?」というお尋ねがあったのですが、我々がテクノソフトさんから権利を受け継いだデータのなかには、残念ながら「ヘルツォーク ツヴァイ」のソースは残っておらず、当時の関係者で知っている方々もおりませんでした。ですので、ゲームソフトの中身を大幅に変更するのは、スケジュール的にも難しいだろうと。そこで、最初のうちはオンライン対戦の実装に注力をしていただくことにしました。オンライン対戦に関しては、まずは一番センシティブだった「ぷよぷよ」でチャレンジしていただいて、これで遅延が気にならないものができれば、ほかのタイトルでオンライン対戦を作っても大丈夫だろうと見込んでいました。

 ですから「ヘルツォーク ツヴァイ」は、オンライン対戦が安定してできるようになったシリーズの中盤以降で作りましょうという段取りを以前から決めていました。で、そのオンラインの調整をしている間に、エムツーさんのほうから「このとっつきの悪さを何とかしたいので、チュートリアルを用意したい」という追加のご提案がありましたので、じゃあお願いしようとお話をしたところから、本格的に開発がスタートしました。ここからエムツーの皆さんが、開発の沼にどんどんハマッていくと(笑)。

 我々セガのほうで、最初に考えていた作業のイメージは、メガドライブ版からの移植が50パーセント、オンライン周りの調整が40パーセント、残りは10パーセントは追加要素を作るというイメージだったのですが、実際に開発を進めてみたところ、私の肌感覚では追加要素である「ヘルツォークアカデミー」で60パーセント、オンラインが30パーセント、移植が10パーセントになってしまったように思います。追加要素をいろいろと作り込んじゃいましたので。

松岡氏: まさに仰るとおりです(笑)。「ヘルツォークアカデミー」は、最初のうちはうまく教えられるものが全然できなくて、山本にシナリオを何度も書き直してもらったのですが、ちょうど新型コロナウイルスが流行し始めたタイミングだったこともあって、在宅作業になったせいでうまく意思疎通ができなかったんですよ。山本にどう伝わったのかな、もしかして怒っちゃったのかなあなどと考えたりもして、ずっと顔を見ていないし、ひんぱんにやり取りができなかったので、悶々とする日々が続きましたね。

――小玉さんは、リードプロデューサーのお立場で「ヘルツォーク ツヴァイ」の提案を最初に聞いたときは、率直にどんな印象を持ちましたか?

小玉氏: 実は提案を受けるまで、「ヘルツォーク ツヴァイ」のことはよく知りませんでした。当時はメガドライブ用ソフトがたくさん作られている時期でしたので、自分がいた部署とは別の所で作っていたソフトのことすら把握できていなかったんですね。今回の「SEGA AGES」のラインナップに入るということで、私も改めてプレイしてみたのですが、松岡さんや奥成がすでに話をしていたのと同じで、初見ではこれがいったい何を意味しているのか、見ただけではまったくわからないところがありました。そんな状態でしたので、新たに今回用意した「ヘルツォークアカデミー」をこなしながら遊ぶのが精一杯で……。

奥成氏: 3DSの「セガ 3D復刻プロジェクト」のときは、私が担当した時の最後に移植したのが「サンダーブレード」だったのですが、これはエムツーの堀井(直樹氏)さんから、ぜひ作りたいと提案があったので作ったんです。で、気が付いたらステージが1つ増えていたり、スタッフクレジットがまるでセガオールスターみたいな豪勢な演出になっていて、もうこれが最後だからと全精力を注ぎ込んでいました。「サンダーブレード」が本当に大好きなプレーヤーから見ても、「そこまでする必要があるのか!?」と思うほどの労力と愛情が注がれていたんです。

 その後、下村のもとでパッケージ化シリーズが続き、最後に出した「セガ 3D復刻アーカイブス3」でもほとばしってしまい、明らかにやり過ぎな仕様でした。そして今回の「ヘルツォーク ツヴァイ」も、まさに「サンダーブレード」と「セガ 3D復刻アーカイブス3」の再来というオーバークオリティになったかもしれません……。

松岡氏: 実はですね、「サンダーブレード」に特に愛情を注いでいたのは、プログラマーの齊藤(彰良氏)だったんですよ。で、齊藤が「たくさん作り込んでも、評判が高まれば皆さん許してくれるだろう」と、全精力を懸けて作ったらああなっちゃったと(笑)。

奥成氏: と、いうことで今回の「ヘルツォーク ツヴァイ」は、スタッフの皆さんが齊藤さんのように「ヘルツォーク」への愛情を注ぎ過ぎた結果、何だかほかとはバランスが取れていない、凄まじい内容になってしまいました(笑)。

小玉氏: 今回SEGA AGESシリーズでは「ヘルツォーク ツヴァイ」を移植すると発表した際に、何人ものセガ社員から「もう一度プレイしたかった!」という声を聞きました。セガやメガドライブが大好きでセガに入社した人は、「ヘルツォーク ツヴァイ」をずっと求めていたんだなあと改めて思いました(笑)。

松岡氏: ホラ! やっぱり「ヘルツォーク ツヴァイ」はメガドライバーの通過儀礼なんですよ。

奥成氏: セガをずっと推してきた人にとっては、テクノソフトというセガ以外のメーカーが、セガのハードにゲームを出してくれるという驚きと、今までに見たことがないゲームが遊べるという喜びがありましたので、「ヘルツォーク ツヴァイ」はメガドライブが好きな人ほど印象に残るゲームだったと思います。しかも、発売したのが1989年末という、メガドライブが本気を出してきたタイミングだったので、なおさら印象が強いのではないでしょうか。

小玉氏: 今の目で見ても、当時としては本当に画期的なデザインだったと思いますよ。もしかしたら、この企画を考えた方は「ホラ、今の世の中は自分が想像したとおりに、思い描いていたとおりにみんながゲームを楽しんでいるだろう?」と思っているのかもしれませんね。

奥成氏: 「ヘルツォーク ツヴァイ」のようなシミュレーションゲームは、ボードシミュレーションゲームの文化がある海外のほうが受け入れやすいようで、特にヨーロッパでは評価が高いんですよ。今まで移植されたことがないタイトルなので、詳しい実績は私も把握していないのですが、ヨーロッパ方面でメガドライブのお話をすると、本作の名前がよく話題に挙げられるんです。

――「ヘルツォーク ツヴァイ」の開発期間は、だいたいどのぐらい掛かりましたか?

山本氏: 私が「SEGA AGES」の開発チームに入った、去年の6月頃に、「ミッションモード」みたいな仕様を考えていたのは覚えています。結局、この仕様はボツになったんですけどね。ただ、自分がチームに入る前から、もう開発は始まっていたと思います。

松岡氏: 今、思い出しました。去年の3月に新仕様のネタを考え始めてから、年末を待たずにその実装はできていました。ですから、開発期間はだいたい1年数か月ぐらいです。途中で小玉さんに無理を言って、配信するタイトルの順番を変えていただいたこともありましたね。

小玉氏: そうでしたね。途中で何度か、順番を入れ替えましたよね。

松岡氏: 配信が一番最後になりましたし、ずっと前から作っていたので詳しいことは忘れちゃいましたね。ほかのタイトルと並行しながら作っていたので、開発期間が長かったのは確かです。もっとも、ほかのタイトルもみんな開発期間は長かったのですが(苦笑)。

小玉氏: それでも、私のなかでは通常運転だったと思いますよ(笑)。特に開発期間が長かったのは、やはり「バーチャレーシング」だったのではないでしょうか。

松岡氏: そうですね。ほかのスタッフが「-SHINOBI 忍-」とか、「ファンタジーゾーン」などといっしょに作っていましたので。「ヘルツォーク ツヴァイ」のほかですと、異様に長くなってしまったのは「ファンタシースター」でしたね。

小玉氏: 確かに、「ファンタシースター」の後は、だいぶ間が空いて待たされましたね。

――1年以上も掛かってしまったんですね……。では、移植をするにあたって、プログラミングなどで特にご苦労されたところは何かありますか?

松岡氏: 技術的な問題で、実装をあきらめた仕様が実はひとつあります。それは、オンライン対戦のときにワイド画面で2人とも遊べるようにすることでした。メガドライブ版は、対戦するときは画面を左右に2分割する仕様でしたが、「SEGA AGES」版では1P側は1Pだけ、2P側は2Pだけの画面だけを表示して対戦できるようにしたかったんです。

 ですが、実装するためには、まず2台分のメガドライブを同時にエミュレーションする必要があるんですよ。しかも片方は1P、もう片方は2Pのみエミュレーションをするという、本来このゲームには入っていない仕様を新たに用意する必要があるので、実装できるまでにはすごく時間が掛かってしまうんです。で、途中までは作っていたのですが、配信のタイミングまでには間に合わないだろうということで、残念ながら途中で打ち切りました。

 技術面とは別の細かいところでは、メガドライブ版のマニュアルとゲーム内での兵器の番号や表記が、若干違っている箇所が新たに見付かりました。これはセガさんのチェックチームの方に指摘されてから、我々も初めて気付きました。違っていた部分は、ゲーム内の表記が正しいということで、こちらに合わせてすべて直しました。

「取っつきにくさ」を解消する秘密兵器、「ヘルツォークアカデミー」とは?

――それでは、ここからは「SEGA AGES」版オリジナルのモード、「ヘルツォークアカデミー」についてお尋ねします。本モードはどのような経緯で作られたのでしょうか?

松岡氏: 先程もお話しましたように、ゲームとしては非常に面白い一方で、取っつきがよくないという問題がありましたので、どうやったら皆さんを沼に引きずり込めるのか、内容を一生懸命考えて作ったものです。シナリオのほうは、弊社の山本と橋本が初めての共同作業で作ったものですが、まさか完成するまであんなに大変になるとは思っていませんでした……。

奥成氏: (実機をPCカメラに向けて操作しながら)ちょっと見えにくいですが、「ヘルツォークアカデミー」はこんな内容です。教官がいろいろな説明をしてくれて、イベント中に自分で操作をする場面も登場します。

――女の子の教官がいるんですね。このキャラはメガドライブ版には存在しなかったと思いますが、何という名前なんですか?

松岡氏: 弊社内では、通常は単に教官と呼んでいますが、実はテトーリ・アシトーリという名前を誰だったかが言い出して笑ったりしてました。

工藤氏: え、本当ですか? 今、その名前を初めて聞いたんですけど(笑)。

奥成氏: 私もですよ。

松岡氏: と、言いつつも、ゲーム中に名前は出てきませんので、プレーヤーの皆さんで、お好きに呼んでいただければと思います。

【「ヘルツォークアカデミー」には女性教官が登場】
プレーヤーをサポートする教官は、その名もテトーリ・アシトーリ(と、呼ぶらしい)

――そもそも、なぜオリジナルの教官を作ろうと思ったのでしょうか?

松岡氏: 初めは国内版のマニュアルに載っている、(男性の)教官のキャラクターを出そうかと思っていたのですが、 「『E-mote(エモート)』(※4) を使えば、ウチの技術を誇示するためのキャラを作って出すことができるんだけどね」と山本に冗談で言ったら、「じゃあ高橋、お前作れよ」という話になってしまったんです。ですから、最初の企画段階でここまで大々的に作ろうとはあまり考えていませんでした。

※4……「E-mote」:エムツーが開発した、キャラクターアニメ制作ツール。低い工数で、なおかつ多くのプラットフォームでリアルタイムで動かせるアニメーションが作れる特徴を持つ。

――今度は高橋さんにお尋ねします。教官のデザインはどのようにして作ったのでしょうか?

高橋氏: 松岡などから、「映画の『フルメタル・ジャケット』に出てきたハートマン軍曹の女の子バージョンにしてくれ」と言われたことを元にしてデザインを考えました。帽子やコスチュームは、見てのとおりで軍服風のイメージで描きました。

――デザインを作り始めたのはいつ頃ですか?

高橋氏: 1年ほど前ですね。最初の頃は、男の軍人みたいなキャラクターも描いたりしていました。企画の当初は別のモードで使う予定で、男女2人ずつキャラクターを作ろうかという案もあったのですが、「そこまでは、ちょっと作れないかも……」ということで削除することになりました。

――本モードでは、各レクチャーの冒頭で「ヘルツォーク!」と叫ぶボイスが流れますよね? これはどなたの声ですか?

松岡氏: 弊社の仕事をよくお手伝いいただいている、島崎さんという方にお願いしました。ボイスを入れたいのに、声優さんが見付からなくてずっと困っていたところで、島崎さんに相談したらすぐに快諾していただけました。島崎さんはプロの声優ではありませんが、とてもいい声が出せる方で、教官のボイスもぜひ注目してください。

――本モードのシナリオは、山本さんが中心になって作ったそうですね。開発を担当したのは、元々メガドライブ版の「ヘルツォーク ツヴァイ」がお好きだったからなのでしょうか?

山本氏: 実は、私は1996年生まれなので、このゲームが出たときにはまだ生まれていなかったんですよ。ですので、エムツーに入社してから、初めてこのゲームの存在を知りました。まだ新人だったこともあって、「今のうちに『ヘルツォーク ツヴァイ』を遊んでおいてね」と言われたので、最初のうちはメモを取りながら遊んでいました。で、改めて当時のメモを今回読み返したら、「1時間もプレイした挙句に負けた。この難易度はどうにかならないものか……」とか、「CPUに全然勝てない」とか、ひどい悪口ばっかり書いてあったんです(苦笑)。でも、繰り返し遊んでいるうちにだんだん面白くなるだろうとは思っていました。メモを取りながら、「すごく取っつきにくいけど、ぜひ皆さんに遊んでいただきたいな」と思ったことが、まずは出発点になりました。

――シナリオを作成するにあたり、特に工夫をしたのはどんなところですか?

山本氏: レクチャーの内容は全部で12種類あり、それぞれミッション形式のような形で、教官が段階的に教えてくれる仕様になっています。当初は1ステージ分をそのまま遊ばせつつ、所々で指令が表示される仕組みにしようと考えていたのですが、これではプレーヤーが一番初めに何をすればいいのかがわからない。あるいは、プレーヤーへの説明が必要な場面で説明が出てこないとか、問題が次から次へと発生してしまいました。そこで、半分ぐらい出来上がったタイミングで「この仕様だと難しいからやめよう」という話になって、一度白紙に戻しました。

 その後も、途中で2回だったか3回だったか、シナリオの内容が全部書き直しになったことがありましたが、やがて製品版の原型となるレクチャー形式のものが出来上がりました。セリフも含め、これぐらいで大丈夫だろうと思ったら、今度はセリフがあまりも教科書的になってしまい、「ゲームを遊んでいるというよりは、むしろ勉強している気分になってしまう。このままでは、皆さんがゲームを遊ぶ前に投げてしまうのではないか」という意見が出てきたんですよ。

 そこで、弊社の橋本という者に「もっとユニークなセリフにするにはどうすればいいの?」と相談をしつつ作り直した結果、ようやくシナリオも含めた「ヘルツォークアカデミー」を完成させることができました。私としては、セリフを細かく丁寧に書いたつもりですが、どうしても「こうしなさい、ああしなさい」という上から目線になってしまって、「本当の鬼軍曹に言われているみたいだ」というもっぱらの評判だったんですよね。

(※ここで、山本氏がオフィス内にいる橋本氏を召喚)

橋本氏: エムツーの企画の橋本です。今回、「ヘルツォークアカデミー」のシナリオ制作の手伝いに参加させていただきました。

【注目のプラクティスモード「ヘルツォークアカデミー」】
教官が説明する動画を見たり、時にはプレーヤー自身が実際に操作をしながら、基礎をマスターできるように作られている

――レクチャーの内容以外に、「ヘルツォークアカデミー」の演出面などで何か工夫したところはありますか?

奥成氏: 実は、これまでに配信した「SEGA AGES」のほぼ全タイトルを振り返るキーワードがいろいろ入っているんですよ。ですので、こちらも今回のお楽しみのひとつになっています。

山本氏: 「SEGA AGES」の振り返りのネタも、橋本に手伝ってもらいながら作りました。ギャグ的な要素もいろいろ入って、かなり面白いものができたと思いますので、ぜひ「ヘルツォーク ツヴァイ」の遊び方を楽しみながら学んでいただきたいですね。

松岡氏: ちなみに、「セガ 3D復刻アーカイブス」シリーズに出てくる アソビン教授(※5) の文章は、だいたい橋本が書いたものなんです。もし「ヘルツォークアカデミー」のシナリオの中で、アソビン教授っぽいセリフを見つけたらぜひ笑ってやって下さい。

※5……アソビン教授:かつて、セガの家庭用ソフトのマニュアルに登場していた、ゲームの攻略法やコツなどをアドバイスしてくれるウサギをモチーフにしたキャラクターのこと。

――本モード中に流れるBGMは「SEGA AGES」版オリジナル曲のようですが、作曲されたのは工藤さんですか?

松岡氏: いいえ。作曲は弊社のジェイリン・ニスペロス、通称チビテクが担当しました。

――では、工藤さんは今回どのようなお仕事を担当したのでしょうか?

工藤氏: 特にいろいろなことをやったのが、「ヘルツォークアカデミー」のサウンドですね。「SEGA AGES」を振り返るネタをいろいろと仕込むことになって、ネタができるたびに「この音を入れたい、あの音も入れたい」というオーダーが松岡からありまして、必要になったサウンドをその都度収録しました。エミュレーターの調整も終わって、「もうこれで一段落したかな? だいたい終わったかな?」と思ったら、今度は「島崎さんのボイスも入れることにしたから!」とある日突然言われたので、また大急ぎで調整に取り掛かりました。

 こんな調子なので、まだ調整が終わってない部分が残っておりまして(苦笑)……。でも、なるべく良いものを作ろうという努力はもちろんしています。製品版では、コミカルな教官の印象がさらに強くなるようなボイスが出来上がると思いますよ。それから、実は国内版と海外版とではボイスが微妙に異なっていますので、もしご興味がある方は、設定を切り替えて海外版のほうもぜひ聞いてみてください。

松岡氏: 「ヘルツォークアカデミー」には、「ファンタシースター」のサウンドもちょっとだけ流れる(笑)のですが、国内版はFM音源、海外版はPSG音源のサウンドを使いました。なぜかと言いますと、「ファンタシースター」が遊べるマスターシステムは海外では元々PSG音源だったからなんですね。海外の人にとっては、懐かしさを感じるのはやはりPSG音源のサウンドだろうと。

【「ヘルツォークアカデミー」の粋な(?)演出】
高橋氏のアイデアで誕生した、思わず笑ってしまう「SEGA AGES」シリーズのネタが盛り込まれているのも、セガファンなら絶対に見逃せないポイントだ

「取っつきやすさ」実現への飽くなきチャレンジ こだわりの便利機能も多数配備

――「ヘルツォークアカデミー」以外にも、何か「SEGA AGES」版独自のモードや演出などはありますか?

松岡氏: 壁紙部分を作るのも、ちょっと手間が掛かりましたね。

奥成氏: 壁紙というのは、4:3で表示されるゲーム画面の周囲に、単なる絵だけが表示されるのはなく、ゲームの状況に応じて兵器やマップなどの情報を表示するようにしたものです。こちらだけを取っても、メガドライブ版よりも遊びやすくなったのではないかと思います。本来であれば、このような仕様は「ソース無しで追加するのは無理だよ!」と一蹴されるところですが、エムツーさんから最初に上がってきたデータにはすでに入っていたのでびっくりしました。

松岡氏: そこは今回、外部スタッフとしてプログラムのお手伝いをしていただいた渡邊さんという、もう68000CPUなら任せとけという方にお願いして、いろいろ解析をして下さったお陰です。当初は別のプログラマーが担当していたのですが、後から渡邊さんにも加わっていただいて実装することができました。本当に助かりましたね。

――メガドライブ版は、プレイデータをパスワードで保存する方式でしたよね? 「SEGA AGES」版でも同じパスワードを使用して遊ぶことができるのでしょうか?

松岡氏: はい。もちろん使えますよ。それから「SEGA AGES」版では、パスワードを自動で保存できる、つまりパスワードの入力を省ける機能も実装しました。メガドライブ版をプレイした経験がある皆さんであれば、これがとても便利な機能であることはきっとご理解いただけるでしょう。

 リプレイの保存・再生ができる機能もシリーズの他のタイトルと同様に実装されています。データは最大10個まで保存できますので、面白いプレイができたとか、友達とアツい対戦ができたときには、ぜひ保存してお楽しみいただければと思います。

――本作でも、「SEGA AGESの」シリーズではおなじみの「ヴィンテージ」や「ドットバイドット」(※6)などの設定も用意されているのでしょうか?

奥成氏: はい。メガドライブ版から移植したタイトルで、過去に実装したものはすべて入っていますよ。

※6……「ヴィンテージ」や「ドットバイドット」:前者は、ブラウン管モニターの表示を擬似的に再現したもので、後者はドットがより鮮明に見えるようになるビジュアル設定機能を指す。

【ビジュアル設定も充実】
「ヴィンテージ」や「ドットバイドット」など、「SEGA AGES」シリーズの定番ビジュアル設定機能は今回もバッチリ搭載されている

――毎度のことですが、ビジュアル面でのこだわりぶりは今回も健在ですね。

山本氏: あと、処理落ち軽減もしましたよね。

松岡氏: そうそう、処理落ちを軽減する機能も追加しました。メガドライブ版では、両軍で兵器を最高50体ずつまで製造できますので、そうするとマックスで100体の兵器が大火力で戦うシーンが起こり得るわけですが、もしそうなった場合はメガドライブのCPUが悲鳴を上げて、ものすごい処理落ちが発生しちゃうんですよ。そこで、処理落ちをなるべく抑えるために、CPUの処理速度をアップさせるスイッチを新たに開発しました。実は「サンダーフォースIV」でも、処理落ちが激しくなるケースがあったので、同じ機能を用意していたんですけどね。100パーセント防げるわけではありませんが、「ヘルツォーク ツヴァイ」でもスイッチによって処理落ちはかなり抑えられていると思います。

――ネットワーク、あるいはローカルでの2人対戦プレイで使える、オリジナルの機能などは何かありますか?

松岡氏: 自機の強さなどを1P、2Pでそれぞれ個別にハンディキャップが設定できる、ヘルパーモードを用意しました。1人プレイ時のCPU軍の設定も変えられますので、どうしても勝てない場合はCPUの設定を弱くしたり、自軍は強くすることで、気持ちよく勝てるようになっています。逆に、昔から腕に自信があって物足りないという人は、CPUを激強に設定して楽しむのもアリではないかと思いますよ。

【ヘルパー機能も搭載!】
設定モードでヘルパーを「オン」にすることで、ハンディをつけて遊ぶこともできる

「SEGA AGES」エピローグ:早くも次のプロジェクトがすでに動き出している!?

――「ヘルツォーク ツヴァイ」の配信が決まったことで、無事に今回の「SEGA AGES」シリーズの全19タイトルが出そろいました。本作の配信を待っていたGAME Watchの読者に向けて、皆さんからメッセージをぜひお願いします。

小玉氏: 多くの皆さんから「配信はまだか、まだなのか?」と言われておりました「ヘルツォーク ツヴァイ」が、ようやく出せるようになりました。シリーズ最後のタイトルということで、エムツーの皆さんがかなりの力を入れてオリジナルキャラクターを作って下さいましたので、まずはここに注目してほしいでですね。私では、初見ではとても無理だと思っていたのに、「ヘルツォークアカデミー」のお陰で少しずつ遊べるようになりましたので、まだ遊んだことがない方にもプレイしていただけたらうれしいです。

 メガドライブファンの皆さんには、すごく刺さるタイトルだったんだなと改めて思いましたし、これから始める方も、最初にこのゲームが出たのはいつの時代だったのかを知った上でプレイしていただければ、ゲームの歴史の新たな奥深さを知ることができるのではないでしょうか。

山本氏: 「ヘルツォークアカデミー」を作ったことで、取っつきにくくて難しいゲームのハードルをかなり下げることができたと思っております。「何だ、このゲームは? 遊び方がよくわからない……」と思うことがなく、「こんなに面白いゲームだったのか!」とすぐに楽しめるようになっていますので、どうぞ宜しくお願いいたします。

高橋氏: 私はあまりRTSを遊んだことがないのですが、「ヘルツォークアカデミー」のお陰でかなり操作ができるようになったので、その効果を身を持って体験しました。今回、初めて「E-mote」を使ったのでだいぶ苦労しましたが、そんな苦労の跡もご覧になっていただけたらうれしいです。それから、スタッフクレジットでは冬野(灰馬氏)が描いた、とてもカッコいいイラストを見ることができますので、こちらもぜひご注目下さい。

工藤氏: 「ヘルツォーク ツヴァイ」の楽曲自体が、総じて映画音楽の影響を受けているアレンジメントになっています。メガドライブはFM音源を搭載しているのでいろいろな音が出せるのですが、本作では特に、低音をドスドスと鳴らすようなアレンジメントになっているので、ぜひ遊ぶときはヘッドホンをしながら聞いてみて下さい。メガドライブ版を遊んでいた方でも、「あ、この曲ってこんなに低音が鳴っていたのか!」という迫力を再発見できるのではないでしょうか。

 多くの曲に重厚感があって、すごく聴きごたえがあると思いますので、今度発売されるCDも併せてぜひ多くの方に聴いていただきたいですね。また、「SEGA AGES」版にはサウンドモードがありますので、対戦で疲れたときはぜひ、好きなサウンドを聴いてお楽しみいただければと思います。それから、「ヘルツォークアカデミー」はビジュアルだけじゃなく、サウンドでも「SEGA AGES」シリーズの振り返りができるようになっていますので、ぜひこちらも楽しんで下さい。

松岡氏: 本当は入れたかったけど、今回は実装することができなかったアイデアが、実はまだまだたくさんありました。それでも、「ヘルツォーク ツヴァイ」には販売価格の範囲内どころか、お値段以上の要素を入れられたと思っております。「ヘルツォークアカデミー」などを一生懸命作りましたので、今回は特に、まだ「ヘルツォーク ツヴァイ」をご存じではない、初心者の皆さんにぜひオススメしたいです。今まで遊び方が全然わからなかった人間が、たった1日で1面をほぼクリアできるところまで上達したという弊社内での実績がありますし、少しでも多くの皆さんに本作ならではの面白さを知っていただきたいですね。

 すでに遊び方をご存知の皆さんは、遊び方がわからない人に面白さを教えてあげて、多くの人をどんどん沼に引きずり込んでください。これは間違いなく名作です!

奥成氏: 「ヘルツォーク ツヴァイ」は、私自身もすごく愛着のあるタイトルのひとつで、発売当時にメガドライブ版で表・裏の32面ずつ、全64面をクリアして両方のエンディングを見るまで遊びました。対戦プレイも、メガドライブが現行機種ではなくなった2000年頃にかなりやっていました。今回、久しぶりに「SEGA AGES」版のサンプルで久々に遊んでみたら、決定ボタンはどれだったのかなあとか、操作方法や占領の方法などの記憶がすっかりあやふやになってショックを正直受けました。

 ですが、「ヘルツォークアカデミー」を見たら、「ああ、ここはこんなルールだったよな」と思い出すことができました。そんな「ヘルツォークあるある」が、愛情を込めてテキストに書かれているんですね。なので、「今でも、普通に『ヘルツォーク ツヴァイ』を遊べるけど」という方でも、読み物あるいは小劇場として「ヘルツォークあるある」がお楽しみいただけると思いますので、ぜひ最後までご覧になって下さい。

 今までテクノソフトの作品を知らなかった、あるいはメガドライブではアクションやシューティングゲームばかり遊んでいたという皆さんには、実はこんな斬新で面白いゲームがあったことを、ぜひ「SEGA AGES」版で知っていただきたいですね。もし遊んでいただけたら、メガドライブのさらなる深みにハマること間違いナシです。

――気が付けば、最初の発表から数年の歳月が流れましたね。それでは最後に、19タイトルを開発するという一大プロジェクトを完遂した、皆さんの率直な今の気持ちをぜひお聞かせ下さい。

小玉氏: すべての「SEGA AGES」シリーズ発売までに2年、開発には足掛け3年近く掛かりましたので、エムツーの皆さん本当にご苦労さまでした。最近はコロナの影響で、なかなかお会いする機会がないものですから、インタビューの場で言うのも正直どうかと思いますが、エムツーの皆さんには「ありがとうございました」と申し上げたいです(笑)。

エムツー参加者一同: ハイ! ありがとうざいましたっ!!

奥成氏: 私のほうでは、まず最初に3DSの「セガ 3D復刻プロジェクト」のプロデューサーとして「サンダーブレード」の開発までを担当して、その後「セガ 3D復刻アーカイブス」の第1作目を作ったところで引退して、それ以降のタイトルについては、どちらかと言えばアドバイザー的な立場で参加させていただきました。

 その後も、自分が立ち上げたプロジェクトを延長するどころか、Nintendo Switchというハードでリニューアルして長く続けていただき、社内的にもセガファンのひとりとしても協力させていただいたので、たいへん感謝しております。ちょっと言葉は悪いですが、責任のない立場で関わることができてとても楽しかったですね。「もし自分だったら、こっちのタイトルを移植するのになあ」という思いも、去年発売したメガドライブミニで消化できましたので(笑)。

 「SEGA AGES」のプロジェクトは、「ヘルツォーク ツヴァイ」をもって終了となりますが、まだ過去に出したタイトルを持っていないという方は、今でも購入できますのでぜひ遊んで下さいね。ただ、セガが過去のタイトルを復刻すること自体は、これですべてが終わったわけではありません。私のほかにも、弊社の小玉や下村(一誠氏)が、次なるプロジェクトの準備を現在着々と進めている最中です。そこにエムツーさんも参加しているのかどうかは、申し訳ございませんが現時点ではまだお伝えすることはできません。ですが、「ああ、またきっとエムツーと一緒に何かやってるんだろうな」と、いうご想像、ご期待にはお応えしたいなと思っているところです。

 「SEGA AGES」が終わったので、Nintendo Switchでは復刻タイトルをセガはもう出さないのかと申しますと、そんなことにはしたくないですね。Switchユーザーのみなさんには、新たにきっとご満足いただけるようなものを提供できればと思っておりますので、その時までぜひ楽しみにしてお待ち下さい。

松岡氏: 我々のほうでも、まだほかにも移植したい、出したいタイトルがたくさんあるんですよ。個人的には、セガ歴代の体感ゲームをコンプリートしたいですね!

小玉氏: 手前味噌な話になって恐縮ですが、「SEGA AGES」は弊社のチェックチームのスタッフとも3年間、ほぼ毎週のように仕事を続けてきました。チェックチームでも、昔のゲームを今に蘇らせることに強い情熱を持ったうえで進めてきたプロジェクトでしたので、1本ごとに熱い思いの詰まったゲームが揃ったと思っております。これからも引き続き、「SEGA AGES」シリーズをプレイしていただけたらと思っております。セガでは、これからもレトロゲームのタイトルには力を入れて参ります。また皆さんと近いうちにお会いできるのではないかと思いますので、ぜひご期待下さい。この度は本当にありがとうございました。

――全19タイトルのリリース、本当におつかれさまでした。次回もまた、世界中のセガファンをあっと驚かせるような発表を楽しみにしております!

特別付録:エムツー堀井社長よりコメント

 今回のインタビューは多忙のため、残念ながらご参加いただけなかったが、「SEGA AGES」シリーズの開発を一手に引き受けたエムツーの堀井直樹社長から後日、以下のコメントが届いたのでお伝えしよう。

エムツーの堀井直樹氏

・「ヘルツォーク ツヴァイ」の第一印象について

 発売直前に見たゲーム雑誌の記事がファーストインプレッションですが、面白そうだと思ったものの敷居が高そうにも感じました。実際に手元にお迎えしたのは、発売日からしばらくしてからですね。もう少し詳しく言えば、お手頃価格になってからでした(当時はそういう事がよくあったのです……)。

・「SEGA AGES」版を開発するにあたって工夫、または苦労したところ

 メガドライブの再現という点については、すでに何度も経験したハードルなので、特に新しい苦労はなく、おおよそはかつて通った道で、同じような苦労をしていく感じでした。

 今回の相手は「ヘルツォーク ツヴァイ」という、まさに時間泥棒の名が相応しいのが本作の良いところではありますが、遊び方を理解するというハードルを超えなければ、まったく意味がありません。ですから、工夫したのは一点集中、皆さんに遊び方を理解していただくこと、すなわちハードルを超えるところまでお連れすることに集約されました。そこで、数々の凄まじいばかりの教練メニューが産み出されることになったわけですが、これらを実現するためには、莫大な量の解析が必須でしたが、その甲斐もあって、とても良い出来栄えになったと自負しています。

 皆さんの貴重なお時間を盗む気満々です! ただ盗まれてるだけでは気が済まないそこの貴方、本作では通信対戦もご用意しておりますので、友人のお時間も道連れにすることもしっかりできるようになっていますよ。

・GAME Watch読者の皆さまへ

 当時としては斬新な内容(※前作「ヘルツォーク」はRTSの始祖です)で、そのためルールの理解へのハードルが高く、当時から楽しめる人とそうでない人が二分されていた本作ですが、その壁を取っ払うべく延々と作り込みました。そのおかげで、「SEGA AGES」のトリを飾るタイトルがまさかの「ヘルツォーク」に!

 実際に遊んでいただければわかると思いますが、トリを飾るタイトルとして、ほかのシリーズ作品にまったく引けを取らない、底無し沼をご用意できたと考えています。これまでリリースした、たくさんのタイトルとともに、末長く時間を盗まれていただきたいです。

 長々と続いた、Nintendo Switch版「SEGA AGES」も、ひとまず幕となりました。「ひとまず」ではあるのですが、セガさんが連綿と作ってきたタイトル群を、改めて遊んでいただく機会を提供するという任務が、まだこれで終わったわけではありません。これからも、「SEGA AGES」を冠したり冠しなかったりしつつ、さまざまなセガタイトルがリリースされていくハズです。

 今シリーズは、延々と過剰な時間を掛け、想定以上の内容を盛り込みリリースされてきました。自分で言うのもなんですが、遊びどころが満載です。皆さんも遊び尽くすまで楽しみつつ、続報を待っていただけたらうれしいですね。あ、でも遊び尽くす前にまたお会いできるんじゃないかな(笑)……。