インタビュー

gumi&よむネコのタッグによる“VRMMORPG構想”を聞く gumi國光宏尚氏、よむネコ新清士氏インタビュー

なぜ映像系VRコンテンツが出てこないのか? VRコンテンツの未来について

映像鑑賞系の代表格である「theBlu」(Wevr)
初音ミクのコンサートに参加できるVRコンテンツ「初音ミク VRフューチャーライブ」(セガゲームス)
実写系映像コンテンツを配信している「360 Channel」

——國光さんに質問です。國光さんは、もともと映像系のキャリアもお持ちですが、私はVRに関して、映像コンテンツについて、もう少しましな風景を思い描いていたんです。ゲームコンテンツが揃わないことは明々白々でしたが、もう少し映像系のコンテンツが揃うと思ったんです。例えば、今日本中で盛り上がっているWBCなら、VRヘッドセットを被れば、VIP席の視点からあたかもその場にいるような臨場感で試合が楽しめる、みたいな。これは別にJリーグでも相撲でもコンサートでも何でもいい。もっといえば、ライブである必要もなくて、VRの特性を活かしたもっともっと没入できるVRコンテンツがもうちょっと出てくるのではないかと期待していました。しかし、結果は、ゲーム以上に出てきませんでした。あるのは、360度フォトに毛が生えたようなものか、DMMさんのアダルトコンテンツぐらい。ゲームと映像、両方の業界を知っている國光さんからみて、なぜVR映像コンテンツは出てこないのでしょうか?

國光氏: 結局、簡単なVRの動画を作るためのツールからなにからというものが、まだそんなに普及していなかったということだと思います。YouTubeで動画を作ってあげるほど、まだVRを撮影して編集するということがそれほど簡単ではないですし。映像に関しても、うちらの投資先のジョリーグッドさんが、VRの映像コンテンツを簡単につくって簡単に出せるような。いまテレビ局とかといろいろ提携していて進めていっています。まず入り口で言うと、素人が撮ってあげられるほど簡単ではない。

——それはわかります。ただ、その模範となるようなプロのコンテンツもまだないですよね? 初音ミクがあれだけ楽しいんだから、AKBだったらもっと楽しいのではないかと思うんですよね。

國光氏: 今少しずつ事例が増えつつあるので、ここからは増えてくると思いますね。

——今年ですか? それとももう少し時間がかかりますか?

國光氏: 今年です。一方でいうと、映像制作系のところとか、今それなりに儲かっているんですよね。特に作る側の方がテレビとかケーブルテレビもそうですし、今Abema TVとかもそうだし、LINEもそうだしモバイルの方の動画のほうが結構みんな仕事が多いし、今動画のほうが、いままさに動画元年がきているのに近い形で、こっちをやっていたほうがまだ結構儲かるんじゃね的な形で、VRはまだ参入も少ない。ただ、ここから大幅に変わってくるとしたら、大きい成功例ですよね。おそらく大きい成功例って、アイドルとのデートとかそういうゲーム、さっきおっしゃったAKBとかそういう感じになってくると思うんですが、そういうものの形が見えてくると一気に増えてくるんじゃないかなという風には思っています。

——私はVRではそういう映像コンテンツが真っ先に出てきて、どれを観るのか選びきれないぐらいのコンテンツがあり、今日は何を見ようとワクワクするような世界を想像していたのに、ビックリするぐらい何もないのが現状だと思います。ここが整ってくると、またVR市場もガラッと変わってくるんじゃないかなと期待しているのですが。

國光氏: でもようやく作りやすいツールだったり、カメラだったりが出てきて、みんな結構こういう領域を見始めてきました。入り口の質問でいくと、ゲームの方ってITリテラシーが映像の人たちよりも高いから、より感度が高いところである程度コンテンツが出てきたのに対して、映像系の人って、ITリテラシーでいうとよりアナログ的な感じの人が多い。ゲームの方がより先に飛びつく人が多くて、映像の人は、こういうのが流行ってきたんだなということでようやく乗り出してきたような形じゃないかなと。ただ、今周りを見ていると、結構VRを始めるとか、そういう感じのところがどんどん増えてきているので、ここからは増えていくと思います。

——gumiさんはいかがですか? 今もちろん、一緒にやるので、gumiさんがVRコンテンツをやるのは明白ですが、映像系コンテンツもやっていくのでしょうか?

國光氏: 投資先のジョリーグッドさんは進めていたりしますが、まあやりたいけど余裕がないというのが本音かな(笑)。

——そんなにコストやリソースが掛かるものなんですか?

國光氏: やるのってビジネスモデルをちゃんと作らなくちゃいけないじゃないですか。作るためには映像制作部隊を作らなくちゃいけない。しかも1本、2本作っても売れないから、それを確実に作っていくだけの態勢を整えなくてはいけないということになっていくと、労力的にも金額的にもそれなりにかかってくるから、どこかやるというところがあったらまずは投資家として応援しますよね。

——まだそういう段階なんですね。VR映像コンテンツについては、まだ成功の方程式が見えていない印象ですね。

國光氏: ビジネスモデルがまだちょっと。映像はまだちょっと躊躇しちゃうなって思うのは、ゲームは今すでに1億とか、2億、3億売ってるゲームが出てきているからビジネスをロケーションを含めて見えてきたけれど、映像は何で儲けるんだろうというのが、正直まだ見えない。だから今の時点では、広告モデルというほどそんなにビューは稼げないだろうし、唯一あるとしたら公式サイトモデルみたいな形で、アイドルや歌手グループを立てて、月額いくらでコンテンツ追加みたいな形とか、そういうアイドルファンビジネスくらいなんだろうけど、そこはもうすでに公式サイトでやられている方がいるから、アイドルのなんたらはやってもらったらいいような気がするし。ではこれを除くと、映像系で何があるんだというところはちょっとまだ見えていないから躊躇しちゃうなという。

 ゲーム系の方はもうビジネスモデルが見えたのでいいけど、映像系はこれからなので、そこのビジネスモデルの確立が急務ですね。本来はソニーとかOculusとかプラットフォーマーが金を出すべきなんですよね。この流れで、ゲームの方面でも、欧米系のビジネスモデルも結構見えてきて、かなり多くの向こうのゲームデベロッパーと話をしているのですが、形で言うと最初のフリーミアムなんですけども、追加パッケージというのが今までのPCだったら多くて年に2回とか、多くは年に1回という間隔だったと思いますが、この間隔が短くなりそうなんですね。

 今のトレンドは、巨大な規模のゲームで6時間、7時間、8時間プレイとか、10時間遊べるものを作って、40ドルで販売するという形ですが、今VRで進められているのは、結局10ドルくらいで、ボリュームは2、3時間分だけど、四半期ごとに新しい追加パッケージを何ドルで出していくという、フリーミアムじゃないけど追加型みたいな。これがほぼ主流になりそうです。

 みんながその選択肢を取ろうとしているのって、VRのマーケットは変化が激しいし、トレンドもみんな今勉強しながら作っていっているという形なので、割と早いタイミングで、ユーザーの声を聴きながらこういうものが欲しい、こういうものも欲しいというのに合わせたアップデートをやって、その代わり1,000円追加でちょうだいという形になってくるんだろうなと思います。

 なので、ここは結構ポジティブに感じているのが、モバイルゲームが家庭用に比べて良かったところがあって、やはり直接お客さんとつながっているから、日々のお客さんの動きであったりとか声を聴きながらプロダクトを日々改善し続けていくというところが、モバイルゲームの大きかったところだと思っていて、VRの方も、同じように出して終わりではなく、出したあとのユーザーフィードバックをしっかり聞きながら、コミュニケーションを直接とっていく。これはモバイルゲームで培ったノウハウがそのまま活きそうだなと感じています。

 ユーザーベースとしてはモバイルよりもはるかに少ないので、直接1人1人から意見を聞いたり、Steamにしても、Redditにしてもそういうところでコメントとかを聞きながら、こうだよねとみんなで作り上げていく。これがたぶん1つのビジネスモデルになりそうだなというのは最近すごく感じていますね。

——では奇しくもバンナムさんの「サマーレッスン」のビジネスモデルが、VRでは正解じゃないかと。「サマーレッスン」を2,980円くらいで売って、衣装セットや新たなシチュエーションを1,000円くらいでDLCとして売るようなモデルですよね。それに近いモデルってことですよね。

國光氏: そうですね。ゲームジャンルによっては、たとえばシューターなら武器追加とかになってくるしとか、ゲームによって何を追加するかは変わってくると思いますが、イメージとしては近いと思います。

よむネコと「エニグマスフィア」の今後の計画について

——先日、ジョイポリスでの正式展開が発表された「エニグマスフィア」ですが、過去にもマルチプラットフォーム展開や機能拡張といった計画を伺っていますが、今回よむネコがgumiグループに加入したことで、今後どのような展開をしていくのか教えて下さい。

新氏: 今決まっているのは、HTC Vive版ですね。Steam経由で3月末にリリース予定です。HTC Vive版はジョイポリスでの展開が先になりますが、アーケード向けに短くして、より盛り上がれるようにしています。難易度調整など、セガさんからのご要望もいろいろあったので、それに対応しています。

——現行のOculus版と、今後リリースされるHTC Vive版は何が違うんですか?

新氏: そういう意味では極端には変わってないですが、いくつかは変わっています。1つはストーリーの概念やタイムアタックの概念を入れました。それとボーナス的な面を追加したのと、競技性を高めて2Pプレイで3分間で何個壊せるかという練習みたいなものをやっています。あれも結構忙しくて大変なんですが、その面が2Pプレイ対戦できるようになったというところが特徴ですね。

【ENIGMA SPHERE: ENHANCED EDITION - Gameplay Trailer】

最新版となる「エニグマスフィア エンハンスド(拡張)版」
「エニグマスフィア エンハンスド」ではタイムアタック等の新モードが追加されている
梅田ジョイポリスの常設版は「エニグマスフィアエンハンスド」がベースになっている

——ジョイポリスでの最終的なビジネスモデルはまだ明らかになっていませんが、1つ気になったのはストーリーモードってありますよね。あれと従量制ってあまりかみ合わないような気がしたのですが。

新氏: いえ、ジョイポリス版のストーリーモードは当然12分くらいで終わるようになっています。

——なるほど、1回プレイでのお支払いでストーリーは全部楽しめるわけですね。

新氏: そうです。ワンプレイ15分800円で、ゲームスタート時にモードと難易度が選べるようになっていて、その中からお客さんが選択をして遊ぶようになっています。ただ、ステージの数は現状のOculus版と同じくらいなので、トータルですと1時間半くらいはかかっています。

——ロケテストで得たノウハウはありますか?

新氏: ものすごく多いですね。やはり、セガさんがどこを見られるかがよくわかりました。やはり課金率と、いかにスタッフの方の手がかからないようにするのかということ。後はVR酔いが確実にないようにするための配慮です。

——ロケーションベースのVRで、回転率を上げる工夫って何なんでしょうか?

新氏: 1つは単純に付けはずしの部分をいかに簡単にするのかというところ。あとは前回からチュートリアルをかなり削って、短めにしたということ。待っている間の時間にすでにチュートリアルを説明してしまってスムーズに進行させるという、回転率をあげるということが1つありますね。

國光氏: 僕自身は、今の日本の方向は違うんじゃないかと思っています。やはりカラオケボックス型が合っていると思う。回転率を上げなくても1部屋1時間何円とかいう形で合計6人くらいのところに友達といって、待っている間に飲んだり飯を食いながらみんなでワイワイやって、逆に滞在時間が長くなってくれれば、別に回転率を上げなくてもいい。もちろん装着のやりやすさや、チュートリアルのわかりやすさは当然必要だけど、どちらかというと、そっちの方がどう考えてもビジネスとしては合理的だと思うんですよね。やはり回転率を上げると言っても、VRの場合でいうと限界があるじゃないですか。なので日本の方も、今後でいくとビジネスモデルというとカラオケボックス型でみんなが滞在という方向で、まあいろいろみんなで検討しながらだとは思うんですが、でも日本でもカラオケボックスというビジネスモデルでも成立しているから、あの形になってくるんじゃないかというのが個人的には思ったりしますね。

新氏: ただ、東京の場合はVRの施設がいろいろあったりするんですが、実は大阪や地方にはまだないんですよね。そういう意味ではお客さんにしてみるとニュースとかではいっぱいみたことがあると。VRという単語は聞いたことがある。でもやったことはない。ですから、ジョイポリスでのロケテストでは、これがVR初体験という方が多かったんです。

 かつ、われわれが作っているものはマルチプレイなので、やはりマルチプレイをやるとお客さんは非常に盛り上がる。それはこっちでテストをやっているときにはっきりしていたのですが、いらっしゃるお客さんの客層も、高校生、大学生が多い。梅田のジョイポリスはプリクラの売り上げが日本一というところで、要するにリア充の学生さんばかりです(笑)。あとは女子2人とかでくるところなんですね。なのでそういう方が、VRを見て、「わー、なにこれ」となって、体験していただいて、完全に没入して非常に楽しんでいただいて、確実に数字が取れることがわかったのですね。アンケートもだいぶやっていただいたのですが、それも非常に評判が良くて、お客さんの評判も非常に好評で、今回の企画も、少なくとも半年間はやるというお話になっているので。

——ジョイポリスは全国にありますが、今後東京進出、全国展開はあるのでしょうか?

新氏: ありえますね。

——それはジョイポリスを軸に? 他社さんは入れられないのですか?

新氏: まだそれは交渉しているのですが。エクスクルーシブではないです。

——では例えばディズニーランドが入れさせてと言ったら?

新氏: 「ハイ、どうぞ」です。ディズニーランドから声がかかるかどうかわからないですが(笑)。

——「エニグマスフィア」は、HTC Vive版と、ロケーションビジネスで一区切りという感じなのですか?

新氏: そこに関してはまだ明快に話せない部分があります。ただ、少なくとも「エニグマ」の後に開発するものは、この「エニグマ」に基づく形でリリースするのは間違いないですね。とりあえずは今はVive版のリリースに向けてスタッフが必死に作っている状態なので。

國光氏: 「エニグマスフィア」の次で言うと、今まさに日本人が日本向けに作ったものをそのまま欧米に売っただけなので、現在、絶賛欧米の方でもユーザーテスト中です。正直、欧米では日本に比べては評判がめちゃくちゃいいというわけではないので、その理由を向こう側のお客さんに聞きながらユーザーテストをしまくっているところですね。

 1つデカい仮説があって、やはりマルチは面白いんですよ。でもマルチじゃないと、正直そうでもない。ニワトリが先か卵が先かの話なんですが、ユーザーが多いとマルチがマッチングされるけれど、ユーザーが少ないとマッチングされないし、しかも日本の時間とアメリカの時間が違うから、おそらくアメリカのお客さんが入ったら、絶対に1人なんですよ。僕らの仮説ではここをなんとかすれば、もっと評価が上がるのではないかと考えていて、そのためには理想でいえば、一緒に遊んでくれるAIがいてくれるといいし、初期段階でいくとコミュニティマネージャー的なスタッフを置いて、最初の人にマルチを教えるという形かもしれない。

 マルチが楽しいのは間違いないんです。やはりVRで重要なのって、没入とマルチ、あと手触り感だよねということはずっと話してたんですが、“マルチで楽しい”にこだわってきた結果、ちょっと正直悩んでいるのがニワトリと卵。マルチじゃないと楽しくないけど、人が増えないとマルチにならなくて楽しめないと、ここをどうしようというところですね。

——そもそも論で言うと、今はOculus版だけですから、本当に全ゲーマー層の1%いるかどうかのような極小のパイの中だけでビジネスをしているわけですよね。まずは広げるのが先ですよね。

國光氏: そう!(大笑)。あれ、今回サーバーはOculusとViveで共有できないんでしたっけ?

新氏: 別なんですが、Steamなんですが、Oculusになっています。

國光氏: 「Rec Room」のようなソーシャルVRでもそこのマッチングに結構悩んだりしていて、やっぱりそれでいくとそれぞれのハードで、マルチでやるとなるとまだユーザー数が少ないから、だからここはマルチプラットフォーム対応で全部に対応するっていうのが必須になってくるのかなと思ったりしています。

——というより、先ほどから國光さんが仰っている、カラオケボックス型のVRシステムに「エニグマスフィア」を置いて、という風すれば一気にユーザーベースって増えると思うんですね。

國光氏: そうそう、そうですよね。

——そのVRシステムに2台置ければ、確実にマルチプレイが楽しめますし、マッチングも発生しやすくなりますよね。それはぜひgumiさんの力でやってもらいたいなと思いますね。今よむネコさんのほうで想定している「エニグマスフィア」の展開ロードマップはあるんですか?

新氏: ちょっといまロードマップを出したら、スタッフが「またマスターアップの最中に適当なこと言いやがって(笑)」とそういいだすのが目に見えるので、ちょっと具体的には(笑)。