シングル系RPGを代表するシリーズが D&D第3版ルールを引っさげて新登場! Icewind Dale2 完全日本語版 |
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■ TRPGのスタンダード「Dungeons & Dragons 第3版」の導入により、ゲームシステムがより奥深く
本作はForgotten RealmsをモチーフとしたRPG。指輪物語のMiddle Earthと双璧を成す、ファンタジー世界の定番である |
Forgotten RealmsをモチーフにしたコンピュータRPGは数多く、有名所だけでも「Neverwinter Nights」や「Baldur's Gate」シリーズ等があるが、本作は「ノース」と呼ばれる北方の地を舞台にした一戦記である。前作IWD1から30年後のノースにおいて、再び蠢きだした闇の勢力を相手に立ち向かうというごくオーソドックスな内容だ。一応続編であるもののストーリー面において前作との関連性は薄く、よってIWD1のプレイは必須ではないので安心して欲しい。
IWD1からの最大の変更点は、TRPG版では最新ルールの「Dungeons & Dragons 第3版」にアップグレードされた事である。具体的にはキャラクタに関する仕様が大きく変わっており、種族によるクラス制限や、クラスによる装備制限などが撤廃された。新クラスについては、攻撃力に特化した戦士の「バーバリアン」、“気”を操る「モンク」、そして呪文の暗記作業が不要な「ソーサラー」が追加されている。他には、神との結びつきにより生まれた人間「アシマール」やダークエルフ「ドラウ」、更に「ラサンダー」、「ヘルム」、「イルメイター」の神々といった、Forgotten Realms特有の世界観もゲーム内で実現されている。
もちろん登場するモンスターや呪文、そしてマジックアイテム等も前作から多数追加されている。これらのD&D第3版の導入に対する雑感としては、プレーヤー側の自由度が広がり、データ面がより奥深くなったという印象だ。D&D系のタイトルはただでさえ、人によっては煩わしさすら感じてしまう程の奥深さを持ち合わせているが、IWD2ではその奥深さに一層拍車が掛かっている。
もっとも、各項目には日本語での説明文が随時入るため、未経験者を含めTRPGに抵抗を感じないプレーヤーならば問題はないだろう。たとえば筆者の場合、ゲーム開始時のキャラメイキング作業にたっぷり5時間以上を要したが、これは苦痛ではなくむしろ至福のひとときであった。コアなRPGファンであれば、この気持ちにはきっと共感してくれるだろう。
ここで導入部の流れを簡単に紹介しておこう。プレーヤーが扮する冒険者の一行が、ノースの港町である「タルゴス」に船で訪れる所からゲームはスタートする。現在タルゴスは、ゴブリンによる断続的な襲撃に悩まされており、対抗するための傭兵を広く集めていたのだ。タルゴスには頑丈な防壁があるものの、ゴブリンは何らかの方法によって街の内部に突如現れ、既に一般市民にも被害が出始めている。この謎を解明して街をゴブリンから守り抜くことが、プレーヤーに課せられた最初の使命となる。そしてその後は、冒険の舞台をノースの各地へと移し、次第に強大な謎に迫ってゆくというわけだ。
キャラクタ作成時のステータスポイント配分は、ダイスロールが不要になった。一律して16ポイントを各項目へと割り振る | スキル選択は慎重に。複数のキャラクタが習得しても効果を発揮しづらいタイプもあるため、全体としてのバランスをよく考えよう | クレリックは信仰する神によって習得呪文が変わる。Forgotten Realmsならではの設定項目は多いが、随時説明文が入るため戸惑わない |
新たな章の開始時にはストーリー説明が行なわれる。本作は重厚な世界観が魅力なだけに、こういったメッセージ関連は隅々にまで目を通したい | これが本作の舞台となる“ノース”。北方の雪国という設定で、荒々しい自然を感じさせるマップが多いのが特徴的 | 船から港町タルゴスへと降り立つ冒険者一行。船長を始め、大半のNPCが何らかのクエストに係わっているため一通り話を聞いておこう |
■ TRPGらしく様々な展開を見せるクエストと、戦術性の高いグループ戦闘がポイント
本作では6人分の操作を常時行なうため、特に戦闘中は手間が掛かる。それだけにグループ単位での戦術をじっくりと満喫できるのだ |
BGやIWDシリーズの未経験者の読者向けに話を進めてゆくと、本作の戦闘システムはターン制となっている。画面写真からの第一印象では「Diablo」のようなアクションRPGに思えるかもしれないが、どちらかというとグループ単位での戦術面に重点が置かれているのだ。プレーヤーは最大で6人のキャラクタを同時に操作するため、リアルタイムの進行では直接攻撃や回復魔法、更にはスキル等といった細かな選択は到底間に合わない。戦闘時においてはスペースキーによるポーズ機能を頻繁に行ない、各キャラクタへ細かな指示を随時与えていく、といったプレイスタイルである。
ゲーム全体の大まかな展開は、例えば先述の「タルゴスを守る」といったメインストーリーを軸にしながら、サブクエストを遂行してゆく。IWD2は全部で「プロローグ+第1~6章」という構成だが、メインストーリーに関する大きな分岐は無く、基本的にはほぼ一本道と考えてよいだろう。
その代わり、数多く用意されたサブクエストについては、プレーヤーにとっての自由度がとても高い。そして同じサブクエストでもクリア方法が複数あり、それに応じて後の展開も微妙に変わってくるのだ。ここで「飲んだくれの傭兵団を街の警備に着かせる」ことが目的のクエストを例に挙げると、交渉能力に長けたキャラクタが根気よく説得しても良いし、あるいは見切りを付け、一刀両断にして身ぐるみを剥いでしまっても構わない。ただし後者の場合は街の警備兵が実質的に減るため、有事の際は自分達の負担が大きくなる。このように、後々の事まで考えてクエスト遂行方法を選ばねばならない。
ひとえにクエスト遂行といっても、NPCと会話を行なうキャラクタによって展開が変わってくるのも、いかにもテーブルトーク出身のタイトルらしい。例えばキャラクタが専攻するスキルの中には、NPCとの会話を有利に進めるための「交渉」、「はったり」、「威圧」といったものがあるのだ。そしてもう一つ大切なのが、9種類から選べるアラインメント(属性)である。例えば混じりけのない善玉“ローフル・グッド”のパラディンは、時としてクエスト達成時の正当な報酬ですら受け取ることを拒否する。その一方で快楽主義“カオティック・イーヴル”のローグは、クエストNPCからレアアイテムをかすめ取ることも何ら厭わない。このように6人のキャラクタの内、いったい誰がNPCに交渉させるのかを考えるのが面白いのだ。
戦闘に関しては、モンスターのAIがかなり賢いとの印象を受けた。例えば冒険者の一行が、モンスターの集落を襲撃する状況を思い浮かべてほしい。従来のこの手のRPGでは、離れた場所にいるモンスターを索敵範囲ぎりぎりからおびき寄せ、各個撃破してゆくのが定石であった。しかし本作では、常識的な範囲内の他モンスターは総てリンクする仕組みなのだ。しかも一斉に襲いかかってきたモンスターは、まず最初に防御の薄いキャラクタを集中的に狙ってくる。そのため戦闘序盤は多対多の混戦になりがちで、プレーヤーには高度な戦術性が求められる。
そして実際に戦闘が始まったら、何はともあれ「一時停止」をしてから、キャラクタの行動をじっくりと考える。タンクを初めとしたアタッカークラスは集中攻撃の狙いを定め、敵が多数いる場合はキャスターが「スリープ」や「ウェブ」等でサポートを同時に行なう。もし敵にキャスター系が混ざっている場合は、強力な呪文を唱えられる前に、ローグが物陰から「スニークアタック」で強襲を掛けるのも有効だろう。このように敵味方の位置関係を踏まえながらグループ単位での戦術面を追求することが、本作のもっとも大きな醍醐味である。
低レベルのキャスターは一日に唱えられる呪文の数が少ない。しかし本作もD&Dの例に洩れず、終盤では比類無き力を発揮するだろう | モンスターの中では弓矢を扱うタイプがいやらしい。とりあえずポーズを掛けてから、味方が集中攻撃を受けない戦術を考えよう | クエストで得られる経験値が多いのも特徴。純粋に戦闘が目的で冒険へ出かけるよりも、クエストを進める過程で戦闘が発生することが多い |
交渉に強いキャラクタであれば、無益な戦闘を回避することも可能。NPCの性格に応じてこちらも手を変える必要があるのだ | 左と同じ場面だが、カリスマの低いキャラクタで接するとこのような結末に。このようにクエスト時の選択肢は何通りか用意されている | プレーヤーの行動は時系列でひとくくりにまとめられている。クエスト関連でつまづいた際は、これを読み返すと手かがりが見つかるだろう |
■ 膨大な量のデータは正統派RPGファンにとって確かな手応えを感じさせる
前作からローカライズを担当した会社が変更されており、翻訳関連のできが気になるという読者もいるだろう。本作におけるNPCとの会話メッセージや、各種ヘルプの文章そのものに関しては、まったく違和感を感じないレベルである。しかしPCが発する台詞に限っては時折、性別に準じない場合が見受けられた(「だ・である」「です・ます」調の混同等)。また、フォントサイズが全体的にやや小さく、解像度やモニタの大きさによっては見づらく感じるかもしれない。
少々気になった点は以上のみで、本作は元々「Baldur's Gate」シリーズから定評のある“Infinity Engine”を流用しているだけに、全体的に安心してプレイできた。とはいっても、初代Baldur's Gateは「Diablo」世代のタイトルである。しかもInfinity Engineを制作したBioWareが別に作った3DRPG「Neverwinter Nights」は、世界的大ヒットを記録。現在となってはこちらがRPGのメインストリームなのはご存じの通りだ。そういった意味においては本シリーズは、時代の流れに乗り遅れているといえなくもない。決して本作を否定しているわけではないが、人によっては評価がわかれるところだろう。
本作のアピールポイントを一言でいうならば、「正統派ファンタジーとしての安心感」である。近年は特にアジア系MMORPGの台頭によって、“ファンタジー”の定義が揺らいでいる、と思うのは筆者だけだろうか。そのような状況下において「Dungeons & Dragons」をベースとした本作をプレイし、ファンタジーのよりどころを再認識することは、それだけでも価値があると思う。
本作の重厚な世界観は、テーブルトークRPGの未経験者にとっては敷居の高さと受け止められてしまう可能性はある。しかしそれは誤解で、じっくりと取り組めば確かな手応えを返してくれるはずだ。例えば、ゲームの設定資料集を読みふけるようなタイプの人は、本作をプレイしてみる価値はきっとある。またそれとは逆に、RPGのプレイ時に会話メッセージを読み飛ばしてしまう人には恐らく向いていないだろう。
IWD2英語版に関しては、発売当時にNWNブームが巻き起こっていたため、かなりの熱心なRPGファンでなければスルーしていた可能性が高い。今回の日本語版発売によって、初めてIWD2の存在を知るという人は実は結構多いのではないだろうか。2Dでインパクトは弱い点については、見方を変えれば必要とするマシンスペックが低く、絵画調のグラフィックを堪能するメリットもある。本作は基本的な作りがしっかりしているだけに、正統派RPGのファンならびに、テーブルトークRPG入門用としてもおすすめしたいタイトルだ。
レベルアップ時は複数クラスの専攻も可能。これはマルチクラスと呼ばれるもので、成長が緩やかになるがハイブリッドなキャラクタを育成できる | 多対多の戦闘においては、最初のターンの行動が勝敗を分けることが多い。密集箇所へ即座に呪文を放ち、オーク3体を眠らせることに成功 | ユニーク系を含むマジックアイテムも多数登場。それぞれの説明文も凝っており、これらに目を通すと世界により一層没入できる |
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(2005年3月18日)
[Reported by 川崎政一郎]
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