歴史上の人物とファンタジーの融合に注目 クエストを重視した本格派シングルRPG ライオンハートサーガ |
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■ 歴史上に実在した人物とファンタジー要素が混在した世界
中世の世界に突如として魔物が入り交じる。ファンタジーRPG系のタイトルは数多くあれど、他に類を見ない世界設定だ |
主人公はバルセロナの奴隷証人に囚われた状態でスタートする。魔物が取り憑いているとのことだが? |
奴隷証人に魔物だと疑われていたものは、プレーヤーの守護霊だった。主人公はリチャードの子孫であること知り、守護霊と共に冒険を進める |
本作の舞台は、史実をベースとしたパラレルワールドになっている。その舞台背景が他に類を見ないため、ざっと紹介しておこう。かつて1192年に、イギリスの獅子心王ことリチャード一世は、聖地エルサレムを奪還するため第三次十字軍を派遣した。そこでイスラムの将サラディンと激しい戦いを繰り広げていたが、その動乱の最中に、とあるリチャード王の側近が裏切り、太古の儀式を行なったのだ。
その結果、「大変異」と呼ばれる巨大な裂け目が生じ、出現した魔物や悪霊が地上を覆い尽くしてしまった。戦争どころではなくなったリチャードとサラディンは、共に力を合わせ裂け目を封じたものの、既に放たれた魔物達を完全に殲滅することはできなかった。やがて魔物達は人類の血統へ入り交じり、数世紀を経た今、ごく当たり前の存在として世界に定着しているのだ。プレーヤーが扮するキャラクタは、リチャードの末裔という設定で、大変異から400年後の1588年のヨーロッパ各地にて、再び蠢きつつある闇の勢力と戦っていくことになる。
本作の世界観は単純なファンタジーではなく、史実性をも含んでいる所に注目してほしい。その最たる要素が、「レオナルド・ダ・ヴィンチ」や「ウィリアム・シェイクスピア」を始めとする、歴史上に実在した人物達がNPCとして多数登場することだ。しかも彼等はそのままの姿ではなく、大変異によって微妙に違う運命を辿っている。
例えば史実において画家、彫刻家、建築家、発明家といった多方面で才能を発揮したダ・ヴィンチは、本作では精霊を利用した発明を積極的に行なっている。逆に、アメリカ大陸の征服者だったはずの「エルナン・コルテス」は、本作ではその目的が叶わず、しかも魔物に片腕を奪われ借金までをも抱えて登場、といった具合だ。歴史上に実在した人物が、魔物や魔法といったファンタジーの要素に適応しながら生活しており、そんな彼等と冒険を行なうのが新鮮である。
魔物や魔物が人類へ強引に入り交じったことにより、様々な面において世界に歪みが生じている。特に重大なのは、魔物や魔法を排除するための「異端審問会」と、それとは逆に共存の道を歩む「魔法使いの会」という派閥が結成されていることだ。またそれとは別に、かつての主導者の意志を引き継ぐ「テンプル騎士団」と「サラディン聖兵団」も含め、本作には合計で4種類の派閥が登場する。
各派閥は互いに牽制や時には対立を行なっているが、どれが善でどれが悪なのかは、簡単には決めつけられない。派閥によってそれぞれの正義があり、プレーヤーは自分と同調するものを選び、彼等と共にストーリーを進めてゆくのだ。そして当然ながら、特定の派閥のみに沿ったクエストも多数登場する。つまり、本作のストーリーは単純な勧善懲悪ではなく、また一本道でもない。これらの点だけでも、本作の世界観が他に類を見ないことが判るはずだ。
ゲームの導入時からプレーヤーをバックアップしてくれるダ・ヴィンチ。様々なクエストの起点となる最重要NPCだ | 「大変異」ひとつを取っても、4つの派閥はそれぞれ受け止め方が違う。プレーヤーが所属する派閥によってストーリーは大きく変わってくる | 異端審問会に魔法が発覚すると、問答無用で攻撃を受けてしまう。プレーヤーはしばらくの間、なりを潜めるようにして冒険を行なわねばならない |
■ 派閥によって様々な展開を見せてゆくストーリーに注目
ゲーム中の主な舞台となるのは、スペインの首都であるバルセロナ。主人公はこの都市に住むNPCと接し、様々なクエストを受けて、旅を続けていくというのが基本的なゲーム展開である。本作ではクエスト遂行時に得られる経験値が多く、これが総てのベースとなっている。よって、純粋に戦闘が目的でダンジョンへ赴くような状況はあまり多くはない。
本作のクエストは大小様々な種類があり、バルセロナに住むNPCとざっと話すだけで、あっという間に10以上の依頼を受けることになるだろう。それらの中でも、歴史上に実在したNPCと関わるタイプがユニークだ。一例を挙げると、先述したコルテスは義手を欲しがっている。彼の義手を作るためには、バルセロナ一の鍛冶屋が義手の骨格を作った後、別NPCのダ・ヴィンチが魔法をかけなければならない。しかし、それにはダンジョンに住む溶岩トロールを倒し、特殊な鉱石を持ち帰る必要がある、といった具合だ。
ちなみにコルテスの義手を完成させると、彼は主人公の傭兵として共に冒険へ赴くことになる。また、彼を仲間にすることで別のクエストを受けられるようになり、このようにしてクエスト同士が密接に結びついているのだ。とはいえ、今紹介したクエスト展開はあくまでも一例であり、別にコルテスを無視してもゲームは問題なく進行する。そのためクエストの取捨選択における自由度の幅は、非常に広い。
本作では幾つもの派閥が登場し、時には両者から相反するクエストを依頼されるため一筋縄ではいかない。例えば郊外に縄張りを構えるゴブリンから、川辺に住む精霊を倒してくれと頼まれる。しかし実際に行ってみると、精霊から逆にゴブリンを倒して欲しいと頼まれ、ここで踵を返して逆の行動に出る選択肢もプレーヤーには用意されているのだ。一般的なRPGの価値観で考えると、ゴブリンを討伐するのが筋のように思えるが、本作では逆の道もしっかりと整備されているため悩ましい。もしかするとゴブリンの勢力と結託して、更にクエストを進めるといった展開があるかもしれないのだ。
それらの中でも最大の分岐点は、先述した4派閥の内、プレーヤーがどこに所属するのかを決める時だ。リチャードの出生の秘密を踏まえれば「テンプル騎士団」へ赴き、身分を立証すれば良いと考えがちだが、他の3派閥に所属することも可能である。リチャードの血を受け継ぐプレーヤーが、テンプル騎士団以外の派閥に所属したら、どのようなストーリー展開が待ち受けているのだろうか? 少なくとも、一度のプレイでは全クエストの半分も遂行できないだろう。それ位壮大なストーリーが本作には用意されている。
■ ツリー型を土台としながらも自由度の高いスキルシステム
本作におけるキャラクタの個性は、大別すると「種族」、「ステータス」、「特性」、「霊」、「スキル」の5要素によって構成される。この手のRPGにありがちな職業の概念は無く、5要素を突き進めることで個性豊かなキャラクタを育てることが可能だ。
これらの要素の中ではスキルに関するシステムがユニークなため、詳しく説明してゆこう。本作のスキルシステムは、「Diablo2」に似たツリー形式である。ツリーの種類は「Fighting(肉弾戦闘)」、「Thief(財宝発見)」、「Holy Magic(神聖魔法)」、「Tought Magic(攻撃魔法)」、「Nature Magic(自然魔法)」の5種類。
「Fighting」と「Thief」ツリーに含まれるスキルは、いわゆるパッシブ系で習得後は永続的に効果を発揮する。一方、それ以外の3ツリーは総てアクティブ系のスキルだ。アクティブ系スキルは、数字の1~7キーにショートカット登録を行ない、プレイ中は頻繁に切り替えながら戦うスタイルである。この辺りは、「Diablo」や「Baldur's Gate」等のRPG経験者であれば、特に戸惑うことはないだろう。
ユニークなスキルも数多く登場する。「Thief」ツリーから一例をピックアップすると、足音を立てずに移動する「Sneak」や、鍵をこじ開ける「Unlock」等は、実際に使用して成功すると、ただそれだけで経験値を得られるのだ。先述したように、本作はクエストで得られる経験値も多いため、その気になれば戦闘をほとんど行なわずにレベルアップすることも可能である。
つまり、本作では職業の概念こそ無いものの、「Thief」ツリーのスキルを突き詰めることで、いわゆる盗賊のキャラクタを育成できるのだ。しかも、スキルポイントの一部を魔法系ツリーに割り振ることで、ハイブリッドなキャラクタとして育てることもできる。
魔法に関しては、倒した敵の死体からエネルギーを吸収してHPに変換する「Absorb Spirit(Natur Magicツリー)」が重宝する。このスキルを活用すれば、ポーションを使うことなくHPを回復できるため、休息を行なわずに冒険し続けられるだろう。アクティブ系のツリーにはそれぞれ19種類のスキルが存在し、職業の縛りにとらわれず、気楽にポイントを割り振ってゆく課程が面白い。
この、「気楽に」という所が実は大きなポイントである。例えば「Diablo2」の場合は、レベルアップ時に与えられた1ポイントをどのスキルに割り振るのかを、悩みに悩み抜くタイトルだったが、本作は違う。一度のレベルアップで得られるポイントが15前後もあるのだ。しかもどのスキルも、1ポイントだけ割り振っても基本的な仕組みは理解できる。そのため、とりあえず全スキルを一通り試してから、自分に向いたスキルに注ぎ込むことが可能だ。
勿論、各スキルにポイントを数多く注ぎ込むことで、効果は次第に高くなる。キャラクタを成長させる方向性が幅広く、しかも後から軌道修正しやすい点は、「Diablo2」と比べ大いに評価できる。
■ 戦闘の淡泊さにさえ目をつぶれば、シングルRPGを好むプレーヤーに強くお薦めできる
戦闘は基本的にヒット&アウェイ。セーブとロードを繰り返しながら、少しづつ進めるというプレイスタイルだ |
傭兵を間違えてクリックすると、画面右下に解雇するかを確認するメッセージが表示される。その都度ゲームが中断されるためテンポが悪い |
敵をおびき寄せる際は、傭兵がいない方が逆に助かる。よって、あらかじめ傭兵を待機させた場所へ、プレーヤーが敵をおびき寄せる作戦が有効 |
感覚的な話になってしまうが、これが例えば「Diablo」シリーズであれば、同じヒット&アウェイでも敵を倒した際にマウスから確かな感触が伝わってきたはずだ。言うならばこの感触こそが、アクションRPGとしての要の部分であり、これが本作ではうまく実現できていない。
それと一時停止中に次の行動を入力受付できないのも不便である。そもそもアクション性を重視するのであれば、一時停止や速度調節の機能は必要ないはずだ。逆に、アクション性を抑え戦術性を重視するのであれば、一時停止を行なってから、じっくりと考えた後に次の行動を先行予約するのは、必要不可欠な機能である。率直に言うと本作の戦闘は、アクション性と戦術性のどちらの面においても中途半端な状態に陥っている。
また、コルテスに代表される傭兵関連のシステムも詰めが甘い。プレーヤーが傭兵に与えられる命令は、追尾する・しないの2通りのみである。しかし追尾時は自分勝手にちょこまかと動き回り、敵を見掛けると勝手に戦闘を始め、HPが減っても退却せずに死ぬまで戦い続けるのだ。要するにAIが賢くない。しかも傭兵はレベルアップや装備のアップグレードが行なえず、死亡時の復活も不可能である。
それだけならまだしも、傭兵は細かく動き回るため、モンスターを攻撃しようとして間違えてクリックすることが頻繁にある。その都度「傭兵を解雇しますか?」というメニューが出て、自分だけが一時中断してしまうのだ。かといって、モンスターを確実にクリックするにも一時停止機能を利用できず、ただ、戦闘を行なうだけなのに煩わしいという感情が先行してしまう。傭兵の解雇コマンドなどは頻繁に行なわなわないため、プレーヤーが誤動作しにくいような仕様にするべきだろう。実際の所、傭兵を雇わずに自分一人で冒険した方が断然楽なのである。
既に述べているように、本作のストーリー面における完成度は非常に高い。しかし、ゲームとして同じくらい重要なはずの戦闘システムが、おざなりになっているのが実に残念である。よって、「Diablo」シリーズのようなアクションRPGとしては、本作は間違ってもお薦めできない。
ゲームとしての方向性は、過去にBlackIsle Studiosが手がけた「Baldur's Gate」や「Icewind Dale」シリーズとまったく同一である。最近のタイトルでは「Neverwinter Nights」や「Beyond Divinity」にも近く、あくまでもゲームの世界観を楽しむのが目的といえるだろう。くれぐれも、この点だけは誤解しないで欲しい。
現在あらゆるタイプのファンタジーRPGが登場している中で、ここまで独自性の高い世界観を一から作り上げた点は高く評価できる。戦闘面に関して酷評はしたものの、上記で挙げた4シリーズのシステムに不満が無ければ、我慢できるレベルだろう。壮大な世界を少しづつ紐解くように堪能するのは、シングルRPGならではの醍醐味である。RPGジャンルは、これから年末年始に掛けてビッグタイトルが数多く発売されるが、シナリオを重視する傾向の読者に対しては、本作は真っ先にお薦めできるタイトルだ。
歴史上に実在した人物が多数登場するものの、これらの知識は特に必須ではない。敷居の高さは他のファンタジーRPGタイトルと同程度だ | 一応マルチプレイには対応しているものの、使い勝手等を考えると実用的ではない。本作はシングル用RPGと考えるのがよいだろう | 戦闘面の不満はあれど、それ以外のクオリティは全体的に高い。好き嫌いは分かれるが、シナリオを重視する人はプレイして損はないだろう |
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[Reported by 川崎政一郎]
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