★ PCゲームレビュー★ |
初心者でも楽しめる「指輪物語」のRTS
ロード・オブ・ザ・リング ウォー・オブ・ザ・リング 日本語版 |
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中つ国を舞台に、ひとつの指輪を巡った善と悪の物語が描かれる。原作を補完するエピソードを盛り込んである |
シングルプレイのタイトル画面。闇の軍勢がこちらを見ている姿が不気味だ | 善側のチュートリアルは仲の悪いエルフとドワーフが教えてくれる | 闇側のチュートリアルは何故か鬼教官口調。日本語版スタッフのこだわりが見てとれる |
■さまざまな種族による軍勢と、それを率いる英雄達。キャラクタ性を重視したRTS
本作の善側のキャラクタを使ったゲームルールは非常にオーソドックスなものにまとめられている。「Age of Empires」シリーズを初めとしたRTSと同じように、生産を行ない、各種の建物を建造、兵を増強するといった仕組みだ。
生産要素はシンプルで、マップ上にあらかじめ設置されている井戸と鉱床の2つから資源を取り出して建物を建てていく。善側の場合、最初は井戸に製粉所、鉱床に鋳造所を建築、砦に資源を運び込む。この後は、兵力の増強のための建築物を建て続ければいい。訓練場を建てればローハンの騎士とゴンドールの剣士が召喚できるようになり、ドワーフの屋敷を建てればドワーフの戦士が、エルフの聖域を建てればエルフが戦闘に参加する。さらに、自らの姿をクマに変えることができるビヨルンや木々の姿をしたフオルンを呼び寄せる万有の安息所や、北方の流浪の民、野伏を使える野伏の番屋といった建物がある。
これらの他、ドワーフと人間族の能力を向上させる鍛冶場など、それぞれ武器や能力をアップグレードさせる建物がある。これにより、攻撃力や防御力をアップさせるほか、野伏が隠れている敵を見破る能力を身につけたりできる。
召喚できるユニット数は最大100に設定されているが、兵士達はユニットの種類によって2や3といったコストを使うので、作成できる最大の部隊は、だいたい40体ほどになる。キャンペーンでは難易度を低くしておけば、村の防衛用に小部隊を残した後、この大部隊で一気に敵を蹴散らしていく、という作戦でゲームを進めていくことが基本的な戦略となる。
特に序盤のシナリオは敵が散発的な攻撃をしてくるだけなので、防備さえ固めておけば、じっくり兵力をそろえることができる。ローハンの騎士達を前衛に、ドワーフの斧を投げるものが建物へ火をかけ、フオルンがオークを蹴散らし、エルフの射手が容赦のない射撃をくわえる。指輪物語そのままの闇の勢力に善なる勢力が力を合わせて立ち向かう情景は、興奮させられるものがある。
この戦いに彩りをそえるのが英雄達。フロドを初めとして、アラゴルン、ギムリ、レゴラス、そしてガンダルフ、おなじみの「旅の仲間」達がその特殊能力をフルに使って戦いを有利に運ぶのだ。彼ら英雄達の存在が、本作の戦いにユニークな色をくわえてくれる。
アラゴルンが1ユニットの体力を回復させる「王の葉」といった能力を持っていたり、フロドが指輪で身を隠したりと、各英雄達は原作に沿った能力を与えられている。その中でも一番強力で、ゲーム的アレンジをくわえられているのがガンダルフだろう。杖を光らせ敵の目をくらませ、炎の雨を降らせて周囲を焼き払う。魔法や特殊能力は再び使うのに時間がかかるものの回数制限はないため、非常に強力なユニットとなる。彼らの活躍によって、本作の個性はより際立ってくるだろう。
このゲームでは、戦いが起こるごとに、「運命の力」というポイントがプレーヤーに与えられる。このポイントを消費することでさまざまな奇跡が起こせるようになる。英雄達の能力に似たものなどもあるが、最大級に強いものは、「召喚」である。特に闇の軍勢が召喚できる「バルログ」は、本作で最も派手なキャラクタだろう。体中に炎をまとい、他のキャラクタの何倍もの大きさのその姿、炎の剣を振るう攻撃力はまさに無敵。ただし、この世界にいられる“寿命”は大変短く、かつ運命の力を大幅に消費してしまうため、使いどころが難しいキャラクタである。敵の本拠地のど真ん中に呼び出すのが効果的だろう。
運命の力は、英雄達の特殊能力の開花や、再召喚にもつかう。キャンペーンでは、こちらの方をまず優先することをおすすめする。特殊能力を持つことで、英雄達はその力をフルに発揮することができ、よりゲームが有利になるからだ。
闇の軍勢の方は、ちょっと特殊なルールが入っている。まず最初にオークの奴隷使いというユニットを使って「腐敗の源」を地面に突き立て、その土地を汚さねばならないのだ。また、オークの奴隷使いは善側のユニットの最大値を増やす露営に当たるユニットである点もユニークだ。そこそこ強い戦闘ユニットなのだが、最前線に出してつぶされてしまうと、こちらのユニットの最大数が減ってしまう。使いどころを工夫しなくてはいけないユニットだろう。
この奴隷使いは闇側の英雄ユニットである黒の乗り手の首領と組むことで、非常にユニークな作戦を実行させることができる。奴隷使いを善側に気がつかれないように移動させ、離れた場所を汚すことで、黒の乗り手の首領は部下の幽鬼と共にその場所に瞬間移動ができるのである。シングルプレイより、マルチプレイでより効果を持ちそうな能力である。
闇側の軍勢は、オークやトロルの他、サウロンに忠誠を誓った人間などがいて、善側に劣らず個性的である。筆者が特に気に入っているのは、働き手に相当するゴブリン。彼らは闇の軍勢の最下層に位置する、非常に哀れな存在だ。プレーヤーの指示に答える声すらみじめで、非常にもの悲しい。そんな存在を無理矢理使役している、と言う感覚こそが、闇の軍勢の「迫力」を生む。キャンペーンシナリオでは、このゴブリンは腹が減ったオークの「非常食」にされてしまうなど、扱いがかなりヒドイ。こういった演出も、指輪物語の世界の深さを改めて実感させてくれるのだ。
■指輪物語の世界を広げる数々のシナリオ
今回のレビューでは善側のキャンペーンを中心にプレイをしてみた。それというのも、闇側のキャンペーンは、善側のキャンペーンをクリアしたプレーヤーが対象の上級プレーヤー用となっているからである。
善側のシナリオの序盤は、ギムリやレゴラス、ボロミアの旅の仲間になる前のシナリオ、つまり、原作が語られる前の物語が展開する。レゴラスのシナリオはちょっと特殊で、森の中、逃げるゴクリを追いかけ、つぎつぎと襲いかかる蜘蛛を撃退するという展開になっていて、生産要素がなく、最初からあるユニットをいかに生き残らせるか、というものになっている。
面白く感じたのが、ホビット達の出発や、ガンダルフとバルログが対決するモリアの坑道など、物語を体験できるエピソードをわざわざゲームのシナリオから外しているところ。シナリオはあくまで原作の補完に徹しており、世界観をふくらましこそすれ、ゲームをプレイすれば指輪物語を読んだような錯覚をプレーヤーに与えることはないのである。Vivendiはこの作品の他にもいくつか指輪物語をテーマにした作品を扱っているが、本作の「割り切り方」はやはり特殊な印象を受ける。原作を読んでからのプレイを薦める理由(映画でも可)は、この姿勢にある。指輪物語で語られていない部分がゲームで楽しめるというスタンスは、筆者にとっては新鮮で好感がもてる。
とはいえ、物語の重要なシーンをゲーム化した部分は、やはり独特の興奮がある。筆者のお気に入りはヘルム峡谷の角笛城防衛のシナリオだ。ここでは、邪悪に堕ちた魔法使いサルマンの手下であるオークが、波となって角笛城を襲ってくる。原作通り、アラゴルン、ギムリ、そしてレゴラスは城の正面を突破しようとする破砕槌を持った軍団を側面から急襲、その後は、数多く押し寄せる敵を必死にくい止める、という展開になる。
アラゴルンの特殊能力、王の葉(ユニットの体力回復)をフルに使わないととてもしのぎきれないハードなシナリオである。時々追加されるローハンの騎士達を最前線に投入、彼らの犠牲によって壁を形成し、エルフの弓手でオークを何とか押しとどめる。このシナリオにも生産要素はなく、少しずつ補給される騎士達だけが頼りだ。
原作では、角笛城の防衛戦ではギムリとレゴラスが倒したオークの数を競うシーンがあるのだが、ゲームでも彼らの働きは非常に素晴らしい。また、左上に倒したオークの数がちゃんと表示されるのも芸が細かい。原作の興奮を追体験できるシナリオだ。他にも、特殊な場所を防衛するために部隊を2つに分けたり、力を奪う邪悪な石碑を倒して回ったりと、ゲームならではのアレンジを行なっているシナリオもある。
善側、闇側共に難易度が低い場合の基本的な戦略は、村の入り口に兵を配置して守りつつ、じっくり軍勢を育てて一気に侵攻すればOKである。闇側の方が敵の侵攻がきつかったりと、多少難易度は上がるが、コツさえつかめば初心者でもキャンペーンを進めていけるだろう。
闇側のストーリーは、善である勢力を追いつめ、土地を腐敗させ、殺戮を繰り広げるという非常に殺伐とした雰囲気が楽しめる。冥王サウロンに仕える愉悦を満喫しながら、黒の乗り手や、トロールを思う存分使っていこう。
今回、発売前のゲームのためマルチプレイは体験しなかったが、シングルプレイで選択できる「フリープレイ」では、コンピュータを相手に、マルチプレイのルールで戦うことができる。最大8人の参加が可能なこのモードでは、キャンペーンのようにじっくり構えてはいられない。
敵より早く軍を育て、資源を確保し、敵の働き手を殺し、牽制しつつ、自軍を守ることも要求される。他のRTSでの鉄則をうまく応用すれば、有利に戦うことができるように感じた。普段はRTSをあまりやらない筆者は、難易度(中)のCPUプレーヤーにすら苦戦を強いられてしまった。マップ上にある資源をうまく、素早く確保し、敵を牽制しつつ大きな兵力を育てる、という戦法をきちんと実行しなければ勝利は得られないようだ。
筆者にとって本作は、指輪物語の要素を盛り込みながらも、RTSの基本に忠実で、RTSファンもすんなりと入り込める作品だと感じた。特にキャンペーンは、原作のシーンを追体験できる要素、さらに原作では語られない部分を補完するシナリオの存在が好感触だ。また、闇側の殺伐とした雰囲気も筆者には非常に面白かった。映画とはちょっと違うセンスで作られている、というのが、この作品に独特の味をもたらしている。指輪物語ファンにも、RTSファンにもお勧めできる作品だ。
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[Reported by 勝田哲也]
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