★ PCゲームレビュー★


三国志の英傑達と戦乱の中国を歩むRPG
幻想三国誌

  • ジャンル:ファンタジーRPG
  • 開発元:UserJoy Technology
  • 発売元:日本ファルコム
  • 価格:オープンプライス
  • 対応OS:Windows 98/Me/2000/XP
  • 発売日:2004年9月29日

■日本ファルコムが贈る台湾メーカー製作の「武侠RPG」

主人公伯雅。優れた軍師である徐庶の教えを受けた彼は、知性と優しさを併せ持つ青年。大望を抱いているが、女性の気持ちには少し鈍感
 本作、「幻想三国誌」は台湾のUserJoy Technologyが製作したRPGである。中国・台湾では、さまざまな歴史を舞台に武術の達人が暴れ回る「武侠もの」と呼ばれる大きな人気を誇る娯楽ジャンルがあり、本作もその流れを汲む作品だ。日本では昔から映画で紹介されることが多いジャンルであるが、中国・台湾では小説も膨大な量が出版されているという。

 さらに本作の題材となるのははるか古代から中国の民衆の心をつかんできた「三国志演義」。最もポピュラーであるテーマを組み合わせた本作はそれだけに類似の作品が何作もあることが予想される。本作は、その中から日本ファルコムの目にとまり、ローカライズされることになった作品である。

 筆者が最初にこの作品をプレイしたとき感じたのは、「技術的にはもう一息かな」という印象だった。あか抜けないキャラクタや、ガクガクするスクロール、移動しづらいマップなど、昨今の日本のゲームに比べると少し遅れている雰囲気はある。しかしゲームを進めていくにつれ、日本人とは違ったセンスで作られたこの作品に強い魅力を感じていったのだ。システム面だけでは語れない「面白さ」をこの作品は間違いなく持っているのである。

 劉備、曹操、孔明、趙雲……、物語には三国志の有名人物が続々と登場し、おなじみの名場面を繰り広げる。プレイヤーは戦乱を憂い、平安をもたらす人物へ仕官を望む青年、伯雅(はくが)となってその場面に偶然立ち会い、彼らと関わりを結んでいくことになる。なによりもまず、三国志の人物達の「言動」がいい。劉備ならではの徳の高さ、曹操の人物の大きさ、張飛の豪快さなど、セリフのひとつひとつにさすがと納得させられる説得力がある。お馴染みの展開といってしまえばそれまでだが、同作では「本場」ならではの深みがあるような気がしてくるから不思議だ。

 また、市井の人々達の描写も見事である。富裕層から物乞いまで、街には老若男女さまざまなNPCがいる。彼らにはそれぞれ1つか2つしかセリフがないのだが、日本とは似て非なる価値観で暮らしているリアリティーがある。どちらかというと素朴な感じだが、欧米型のゲームのようなドライな感じがしないところが面白い。悲劇を嘆いていたり、かなりウエットなところがアジアンテイストだ。

 英雄達が歴史を作っていく激動の時代、主人公達はその流れに取り込まれていく。展開する物語は、三国志に忠実なだけではなく、仙道や妖怪といったオリエンタルファンタジー要素も多分に含まれている。

 また、水墨画のタッチのような繊細な自然描写を実現したグラフィック、デフォルメされたキャラクターながら、香港アクション映画のようなイベントシーンも独特の味がある。台湾のゲームというのは、こういった傾向を持つのか、と言う感慨が味わえる。日本の最新ゲームと比べると操作感などで見劣りがする部分があるが、一定のレベルはクリアした、質の高い作品である。

 さらに、主人公が気の強い姉に頭が上がらない部分など、「日本ファルコムの好み」もうかがえてユニークである。日本ファルコムはさまざまな自社の作品だけではなく、「アークトゥルス」といった海外のゲームでも、気の強い元気な女の子が登場する作品を発売する傾向があると思うのだが……。ファルコムファンがこういった視点でチェックしてみるのも面白いかもしれない。

 海外の質の高い作品を、積極的に日本で紹介するという日本ファルコムの姿勢は、高く評価したい。特にRPGではキャラクタの会話から描写、物語への視点など地域性が強く出て、その独特の感覚は味わい深いものがある。今後とも期待したいところだ。

羽鳳。伯雅の姉であるが、大きな秘密を持っている。なにかと伯雅の世話を焼いている 燕起。温青とともに伯雅と義兄弟になる。器の大きな豪快さを持つ青年である 貂芝。気性が荒く、言葉使いも荒いが、気は優しい少女。実はある有名人物の娘である
糜香。孔明の命令で一行と共に旅をすることに。召喚獣を使役する不思議な力を持つ、淑やかな女性 劉備の将軍として人気も高い趙雲。三国志の英傑達がつぎつぎと登場するのが本作の魅力だ 劉備と彼の武将達。三国志の世界で彼らと共に行動できる感触は、興奮させられるものがある



■戦乱の地に旅立ち、豪傑達と出会うストーリー展開

 主人公伯雅は徐庶(じょしょ)に師事する青年。徐庶は劉備に仕えていた軍師であり、曹操に母親を人質に取られ主の元を去った過去がある。彼の教えを受けた伯雅は軍師の才能を持ち、戦乱に疲弊する民衆を助けたいと願っていた。

 山奥で暮らしていた彼らの元に、謎の刺客が現れる。師の言葉に従い、姉の羽鳳(うほう)と共に山を下りる伯雅。彼らの心の中には疑問が残っていた。刺客たちは、彼らの両親がある秘宝を盗んだというのだ。真実を探すため二人は旅を開始することになる。

 姉の羽鳳はひとつの秘密を抱えていた。彼女には徐庶とは別の師があり、その師から「鬼」を操る秘法を授かっていた。邪法といわれるこの技を師は何故彼女に教えたのか? どうしてこんな力が自分にあるのか? 羽鳳自身、自分の運命をまだ知らずにいた。

 気が強くしっかり者だが、人とうち解けることが苦手な羽鳳と、人なつっこさと大望を抱く伯雅。二人の姉弟は劉表が治める地域、荊州でトラブルに巻き込まれる。街で開かれていた武芸大会でその力を誇っていた少女、貂芝(ちょうし)と戦うことになってしまうのだ。観客は非常に興奮して、「女が負けたら男の嫁になれ」などとはやし立てる。仕方なしに剣をとった伯雅は、貂芝をうち負かしてしまう。

 倒れた貂芝に優しく手をさしのべる伯雅、しかし貂芝は顔をまっ赤にしてその手を払いのけ、会場から去ってしまう。伯雅が見せた見事な剣の腕に二人の男が声をかけてきた。放浪の武士である燕起(えんき)と、大金持ちの息子である温青(おんせい)である。

 3人はこの乱世を憂い、また自分の力をふるいたいという想いで意気投合する。燕起のもつ武芸の技、温青の財力と知力、そして伯雅の軍師としての知恵、この3つの力で何か大きなことを成そうと3人は義兄弟の契りを結ぶ。

 3人の義兄弟に声を掛けてきたのは先ほど急にいなくなった貂芝。彼女は曹操軍に敗れた劉備が現在劉表を頼っており、その劉備の暗殺を3人に手伝って欲しいと懇願する。劉備は親の敵だと語る貂芝に3人は力を貸すことにし、羽鳳もそれに従う。

 夜の闇に紛れ屋敷に侵入し、劉表の護衛兵を蹴散らした後、劉備の前に立った一行。その前に劉備自慢の将軍の一人、趙雲が立ちはだかる。将軍の優れた剣の腕に絶体絶命になる一行の窮地を救ったのは、劉備を見張っていた曹操軍の間者達だった。

 曹操に謁見した伯雅たちは恩もあって曹操に仕えることとなる。しかし、敵対する劉備の徳のある行動に惹かれ、伯雅は自分の仕える主人は劉備だと決心する。それを告げると烈火のごとく怒る曹操。しかし、彼らは何故か許される。

 その秘密は羽鳳にあった。彼女と曹操は特別な関係にあり、彼女が曹操の元に残ることを条件に、伯雅達は許されたのである。その取引を知らず、何故姉が自分の元を去ってしまったのかに苦悩する伯雅。貂芝は恋をする少女の直感として、羽鳳の想いに気がついていた。羽鳳の伯雅へと向ける想いの中には、姉弟を超えたものがあるような気がするのだ。姉の姿を追い求める伯雅に、貂芝は密かにいらだつ。

 伯雅は姉の行方を心配しながらも、劉備に仕え、孔明に師事することになる。「曹仁軍の撃破」、「三顧の礼」、そして「長坂の戦い」今回紹介できる部分では、これらのイベントに、“重要人物”として参加ができる。できれば三国志の物語を軽く知っておくことをおすすめする。解説本でも、横山光輝氏の漫画でもOK、より一層感情移入できるはずだ。

 ただし、原作第一主義になってしまうのは危険だ。本作では関羽や張飛と馬を並べて戦う興奮が体験できる。特に、物語屈指の名場面のひとつである、「阿斗を抱えて敵陣を突破する趙雲」を“助ける”ことができるのは、本作ならではの感触が楽しめる。「助けられたら、趙運のすごさが台無し」という意見が出てくるかもしれないが、ここはもう少しライトに、三国志を題材に、架空人物であり、プレイヤーの分身である伯雅たちが、大豪傑を助けて活躍する姿を楽しんでいきたい。

 さらに、本作ならではのオリエンタルファンタジー要素がある。特に曹操の軍師である司馬懿は不気味な策謀をする「悪役」として描かれており、羽鳳と空を飛んで術合戦を行ったりする。

 制作者が思いを込めて作った「もうひとつの三国志」となる本作。オリジナル要素が物語にどんな視点を加えていくか、日本人とは違うセンスで構成された物語を楽しめる作品である。

山奥にある徐庶の家を急襲する司馬懿。状況も分からず、師の術によって逃がされる伯雅たち。冒険の始まりだ 羽鳳の鬼を使う術。徐庶は彼女がこの術を使うことを快く思っていなかった。羽鳳はある師匠によってこの術を学んだのだが、秘密にしている 伯雅の夢の中に登場する男。彼とそっくりの外観をしているが、性格は非常に酷薄である。なぜこんな夢を見るか、伯雅自身も分からない
趙雲に劉備暗殺を阻止された一行は、曹操の軍に一命を救われる。伯雅は彼に仕えることになる 羽鳳の背中にある鳳凰の形をした痣。彼女自身の特別な運命を示す印だ 去っていった羽鳳の姿を探し求める伯雅に苛立ちを感じる貂芝。それは彼女自身の想いが生む嫉妬なのだろうか?
かわいい少女の姿をした百月。実は妖狐の化身である。人間に憧れているのだが、その言動はどこかずれている 司馬懿の術に操られてしまった徐庶が一行を襲う。師を救う術はないのだろうか? 羽鳳は伯雅を救うために曹操の元に。曹操にとって彼女は特別な存在のようだ
つぎつぎと展開する三国志の名場面。劉備の武将として、戦乱を治める望みを持つものとして、伯雅は仲間達と戦っていく



■多彩な陣形と武学、自由度の高い召喚システム

 本作の特徴としてハーフリアルタイム制による「短考」というバトルシステムがある。キャラクタの行動時間を合わせることで連続攻撃を可能にするシステムで、非常にスピーディーな戦闘が楽しめる。ただし、ちょっとせわしないことも確かで、ゲームになれるまでは設定で通常のターン制の戦闘を行なう「長考」にしておく事を薦めたい。

 実際筆者はほとんど長考で中盤まで乗り切ってしまった。しかし中盤からは敵の体力が物凄い量になって、戦闘が中だるみしてしまう印象を受けた。そこで短考に切り替えたところ、まったく違う感触に驚かされたのである。連続攻撃の爽快感や、後述する召喚獣の働きが段違いなのである。まず長考でプレイに慣れ、その後に短考に切り替えるという方法は有効に感じた。

 本作の面白さのひとつに、「陣形」がある。主人公である伯雅が軍師である設定を活かしたシステムで、攻撃を伸ばす「長蛇陣」、防御が得意な「玄甲陣」などさまざまなものがある。特にボス戦では、前半は防御能力を増やしたり、状態異常を防ぐ布陣で望み、後半一気に攻撃力に傾かせるなどの運用が可能だろう。

 「武学」は他のゲームの魔法や特技にあたるもので、キャラクタ達はそれぞれ固有の技を持ち、派手なエフェクトで強力な攻撃や、特殊効果を発動させる。各技にはレベルがあり、経験値とは別に入手できる「精元値」を消費することで、レベルアップが可能だ。技を強力にすることで効果範囲が増えたりダメージや回復値が増加する。

 ただ、入手できる技が少し多めで、各技の違いがはっきりしないという印象も受けてしまった。多彩な技が楽しめるのはいいが、ちょっと散漫な印象を受けてしまった部分である。

 キャラクタはさらに装備によって個性化が図られている。鎧や武器にはそれぞれ「スロット」が設定されており、そこに「晶塊」とよばれるアイテムをはめ込んでいくことでさまざまな追加効果が得られる。体力などを伸ばすものから、敵の耐性や特性、さらにはランダムで魔法効果が発生するなどさまざまである。

 晶塊はゲームが進むに従ってかなりの種類が入手でき、それをキャラクタにはめ込んでいく作業は楽しい。武器防具の場合、性能の他にスロットの数も差別化が図られていて、スロット数のために技と一ランク低い武器を使い続ける、という選択も有効だ。

 「召喚獣」はユニークなシステムだ。仲間になる孔明の弟子、糜香(びこう)という少女が使いこなす能力で、3体の妖怪を使役することが可能になる。最初は卵で、これを戦闘中に呼び出すことで経験値が卵に入り、「幼態」として孵化、さらに完全体へと進化する。

 召喚獣には戦闘に役立つ能力の他にも、隠されたものを発見したり、動物と会話ができたり、とフィールド上でも役に立ってくれる。強力なアイテムが入手できるほか、シナリオ攻略にも不可欠なので、完全体までは3体とも成長させておきたい。

 各召喚獣には能力値が設定されており、その割り振りはプレイヤーにゆだねられている。その数値によって完全体の姿が変わるのである。完全体には鳳凰の姿をした「文鸞」やおなじみの「九尾の狐」などさまざまな種類があり、一度クリアしてから、他の完全体に挑戦すると言った遊び方も可能だろう。

 前述したように戦闘を短考にしておけば、召喚獣は非常にこまめに働いてくれる。攻撃や回復など自分たちの状況をより有利にしてくれる頼もしい存在である。

 本作のシステム面は、特に日本のRPGの影響を強く感じた。しかし、アイデアが先走って、ちょっと練り込みの必要性を感じた部分があるのも確かである。しかし、全体的な視点でこの作品を評価すれば、システムや操作感以上の強い魅力を本作は持っている。少し荒削りだが、異国の情緒を確かに感じられる。RPGファンにも、三国志のファンにもオススメできる作品だ。

戦闘画面はオーソドックスにまとめられている。敵キャラクタに中華テイストが感じられて楽しい 伯雅が使いこなす陣形。軍師を志す青年ならではの技である。状況に合わせて陣形を変えると有利に戦える 武学は各キャラクタに固有の技。派手なエフェクトで戦闘を盛り上げる
軍師から渡されたアイテムを使うと支援が受けられる。大軍の戦いをうまいデフォルメで再現しているといえるだろう 戦いで得られる精元値を使用してレベルアップ。ダメージ量が増えたり、効果が持続したりと強力になる 晶塊を武器のスロットにセットすることでさまざまな追加効果が得られる。キャラクタの個性が際立ってくるアイデアだ
自由度の高い召喚獣育成システム。好きなようにポイントを割り振っていける 割り振ったポイントによりさまざまな妖怪に変化。技も強力なものを使うようになる 召喚獣と“合体”することで行動範囲を広げることが出来る。シナリオ中必要になることも


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【幻想三国誌】
  • CPU:Pentium II 400MHz以上(Pentium III 550MHz以上を推奨)
  • メモリ:[Windows98/Me]64MB以上(128MB以上推奨)
    [Windows2000/XP]256MB以上
  • HDD:2GB以上の空き容量
  • ビデオメモリ:32MB以上


□日本ファルコムのホームページ
http://www.falcom.co.jp/
□「幻想三国誌」のホームページ
http://www.falcom.co.jp/fs/index.html

(2004年9月27日)

[Reported by 勝田哲也]


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