クールで体の柔らかい、僕らのカリスマ中年オヤジ「サム・フィッシャー」が帰ってきた。Xbox用ゲームとしてメガヒットを飛ばしたステルスアクションの傑作「Splinter Cell」の続編が登場したのだ。
■ 「Splinter Cell」とは?~ハリウッド映画並の重厚感を実感せよ
日本国内では、コナミの「メタルギア・ソリッド」がこのタイプのゲームの代表例となっているが、「Splinter Cell」のゲーム性、キャラクタ像などをはじめとしたゲームコンセプトは、「メタルギア・ソリッド」と確かに似ている部分は多い。「Splinter Cell」を北米版「メタルギア・ソリッド」と呼ぶゲームファンもいるくらいだ。 では、両者の違いはどこにあるのか。一番の違いは描き出そうとしているテーマにある。 「メタルギア・ソリッド」はSFテイスト満点なエンターテインメントを目指している。これに対し、「Splinter Cell」は、「レッドオクトーバーを追え」、「今そこにある危機」、「パトリオットゲーム」、「トータルフィアーズ」などのハリウッド映画の原作者で知られる、軍事テクノスリラー作家トム・クランシーが監修していることもあって、硬派なムードでプレーヤーを包み込み、一連のプレイの中でリアリズムを感じさせることを最優先にしている。 ただし、誤解してもらっては困るのは、「Splinter Cell」はいわゆるコンバットシミュレーションタイプのゲームではないということだ。トム・クランシーものゲームとしては軍事マニア御用達の本格派「Rainbow Six」シリーズがあるが、「Splinter Cell」はあそこまでお堅くはない。 「メタルギア・ソリッド」同様、「Splinter Cell」においても、プレーヤー扮する主人公のサム・フィッシャーのヒロイズムの描写には力が入っており、いわゆるキャラクタの立ったゲームになっているので、軍事ファン向けではなく一般人向けなのだ。 “if”を含んだ政治的背景と、“real”で形作られた軍事&ハイテク情報が畳み込むように押し寄せてくるストーリーはまさに圧巻、ハリウッド映画のクオリティであり、その中で数々のインポッシブルなミッションをこなしていく主人公サム・フィッシャーは、ヒーローそのものとして描かれている。
映画ベースのゲームは数多くあるが、その意味では「Splinter Cell」はゲームプレイそのものがトム・クランシーものの映画なのだ。ちなみに補足しておくと「Splinter Cell」というトム・クランシー原作の小説はない。「Splinter Cell」はトム・クランシーの、活字になっていない小説であり、ロードショーされていない映像作品なのだ。
■ サム・フィッシャー、インドネシアへ飛ぶ!
低い声で繰り出される、極限状況下には到底場違いな冷淡かつ毒舌調の台詞の数々はまるで詩のように聞こえ、プレーヤーの適当な操作で繰り出されるアクロバット・アクションな体術はもはや曲芸の域に達している。まさに全米ナンバーワンの理想の中年といったところか。 そんなサムに与えられた今回のミッションは、インドネシアのゲリラ組織との対決。イラク戦争後、イスラム諸国における反米感情が高まる中、イスラム教信仰が盛んなインドネシアでも同様の動きが活発化しつつあった。2006年、アメリカはインドネシアの民主主義国家化支援を名目に米軍基地を設営するが、これをよかれと思わぬインドネシア国内の過激派ゲリラの活動が活発化する。
内乱勃発への緊張が高まる中、最も過激なゲリラグループのリーダー、スハジ・サドノは、数十名の部下と共に、インドネシアの首都ジャカルタにあるアメリカ大使館を襲撃計画を実行に移す。「Pandora Tomorrow(パンドラ・トゥモロー)」の合図と共に……。
「分離された(Splinter)組織(Cell)」…というわけだ。彼らのモットーは「(先制)攻撃的な諜報活動」と「痕跡を一切残さないこと」。スプリンターセルには「目に見えないほど小さく鋭い(Splinter)破片(Cell)」という意味も込められているのだ。 サムに与えられた第一ミッションは、ゲリラに占拠されたアメリカ大使館への潜入。「人質の救出?」……否。そんな表立ったカッコいい任務がスプリンターセルに与えられることはない。助けるも何も、なにしろ、スプリンターセルは“存在していない”のだから。 任務の第一目標は、潜入した大使館内のコンピュータの極秘ファイルの消滅隠滅。 「繰り返す。人質の安全は重要だが、救出が任務ではない」
ここで熱血ヒーローならば「納得できません!」とか叫び出しそうだが、寡黙なサムは無言の背中で夕闇迫るジャワ海へ降下する。今作は主人公が同じだけで、基本的に前作とのストーリーの関連はないので予備知識は不要で楽しめる。スプリンターセルを知らない人にこそ、この、ちょっと新しいタイプのヒーロー像に触れていただきたいと切に思う。
■ 息を飲むようなスリリングなゲーム体験
「Splinter Cell」は、死体が消えるご都合主義ゲームではない。気絶した相手、殺害した敵は、その他の敵の目の付かないところに隠す必要がある。今作ではこの判定が若干厳しくなっており、いい加減なところに隠しただけでは、要所要所のチェックポイントで「賊が侵入した。警戒せよ!」という判定がなされてしまう。誰も来なさそうな閉塞空間でも、照明が明るいとダメだったりする。「Splinter Cell」というゲームは、シーン内のほぼ全ての照明オブジェクトを撃ち壊せる。そう、死体を隠した場所の照明は切るか破壊する必要があるのだ。 シーン毎に、ミス許容回数が設定され、その回数の範囲内であれば、敵に発見されてもゲームオーバーにならない。その許容回数は1回だったり、3回だったりと局面によって変わってくる。なお、敵がサムを発見すると無線機で仲間に伝えようとするが、無線機を構える前にその敵を行動不能にしてしまえば、ミスカウントにならない。物音などで敵が異常を感じた場合でも、こちらの姿さえ見られなければ、ミスにならない。逆に、物音を立てて敵を誘き出すことはゲームを進める上で欠かせない重要な陽動行動となっている。 アドベンチャーゲーム的な「謎解き」というものはあまりなく、ゲーム進行中、リアルタイムに作戦本部のランバート大佐から出される指示に従っていくだけでいい。具体的にサムが行なう作業とは、前述したような破壊工作の他、尋問、暗殺、盗聴などがある。
「Splinter Cell」における謎解きはむしろ地理的、あるいは地形的パズルといったほうがいいかもしれない。つまり「あそこへいくために」、「どうやっていくか」これを考えていくゲームになっている。どんなアクションをすればいけるのか、あの敵をどう排除すれば行けるのかこうしたことを考えさせるパズルが随所に仕組まれているのだ。
■ 視点は三人称視点~映画俳優と映画監督の両方になれちゃう!? さて、オーソドックスなFPSスタイルを採用している同作だが、ゲーム中の視点は基本的に三人称。見下ろし視点が基本のメタルギアソリッドシリーズとのゲームデザイン上の差別点でもある。そして、もう一つ、キャラクタの向きや移動方向を維持したまま、常にカメラアングルを自由に変えられるというのも大きな特徴だ。 これはゲーム世界の全方位に気を配れるようにという配慮と、もうひとつ、主人公サム・フィッシャーの華麗な体術アクションを堪能するためへの配慮でもある。まずは下の画面を見ていただきたい。
なお、今作では新アクションが追加されている。その名も「ハーフ・スプリット・ジャンプ」。前作で全世界のゲーマーの度肝を抜いた「股割り静止アクション」のアナザーバージョン、いうなれば「半股割り」といった感じの技で、片足に重心を置いたまま閉塞空間に静止する技だ。 狭い空間で三角飛びをするだけで行なえてしまう。凄いのがさらにここからジャンプすることができる点で、ジャンプ先に掴めるところがあればそこへぶら下がることができる。地上から見上げた感じではとても高くていけそうにないところでも、この技を使えば到達できるのだ。やってみると意外に簡単にできてしまうので気持ちがいい。 「映画における特等席は劇場の中央席ではなく、撮影現場の監督席だ。」といった映画監督がいたらしいが、「Splinter Cell」の場合はプレーヤーが役者と映画監督を兼任している感覚である。過激なアクションは自分で行なえ、さらにそれを監督席で楽しむことでがきる。「Splinter Cell」はそういうゲームなのだ。
■ 「Splinter Cell」の世界をうまくマルチプレイ化! 今作で、ついに「Splinter Cell」の世界がマルチプレーヤーモードに対応した。銃器を取り扱う3Dゲームのマルチプレイはただ殺し合うだけの簡易デスマッチモードを付けただけのものが多いが、「Splinter Cell」のマルチプレイはひと味違う。シングルプレイの面白さとゲーム性がうまく対人戦としてまとめ上げられているのだ。 マルチプレイでは、プレーヤーは潜入スパイ側(Shadownetチーム)と防衛傭兵側(Argusチーム)に分かれての対戦となる。基本ルールとしてはゲームフィールド中に点在する「ND133ウィルス兵器」を奪いに行くのが潜入スパイ側、これを阻止するために防衛に当たるのが防衛傭兵側の役割になる。 ボイスチャットにも対応しており、味方同士は会話をしながらプレイを行なえる。有機的な作戦行動を行なう際には非常に役に立つフィーチャーとなる。 さて、ゲームモードは全部で3種類。 ●Neutralizationモード(ウィルス中和化モード) 潜入スパイ側は、ND133ウィルス収容装置のある場所に行き、これを中和する操作を行なう。中和操作には時間がかかり、ND133収容装置の前で中和操作をし続けなければならなず、中和操作中は無防備となる。 傭兵防衛側のやるべきことはND133ウィルス装置の中和の阻止。ND133はマップ内に数カ所点在するので一箇所のND133を見張るだけでは意味がない。中和が途中で阻止されても、同じ場所のND133の中和化はその途中から再開することが可能。規定個数のND133を中和できれば潜入スパイ側の勝利。ゲーム終了までの間、防衛に成功させれば防衛傭兵側の勝利となる。 ●Extraction(脱出モード) マップ内に点在するND133の試験管を奪取、エリア内の定められた指定ポイントまで持って行くことでそれまで閉ざされていた扉が切り開かれる。規定個数の試験管をポイントへ運び、全ての扉を開いて脱出すれば潜入スパイ側の勝利となる。 防衛傭兵側はND133の奪取を阻むことが最優先され、ひとたび奪取されたらばそれが指定ポイントに運搬される前に潜入スパイ側を撃ち殺さなければならない。FPSでいうところの、いわゆる「籏撮り合戦(キャプチャーザフラッグ:CTF)」系に近いゲームモードだ。 ●Sabotageモード(妨害モード) ウィルス無効化モードの別アプローチ版という印象のゲームモード。ゲームの基本ルールは同じで潜入スパイ側がND133の中和化を目指し、防衛傭兵側がこれを阻むことが目的となっている。 Neutralizationモードと違うのは、中和のさせ方。妨害モードでは、ND133収容装置の近くに中和装置(モデム:MODEM)を設置することで、その場に居続けなくてもND133の中和作業をリモートで行なえるのだ。なお、中和装置は一度に1基しか携行できないという制限がある。 ひとたび中和装置を設置しても、すぐには中和されず、設置後開始されるカウントダウンがゼロになって初めて中和成功ということになる。中和が完了するまでに防衛傭兵側はこれを破壊できればOKだ。一度中和装置が破壊されても中和化プロセスは進んでいるという設定なので、同じ場所に設置した場合のカウントダウンは以前の値からの再開になる。
死亡すると割り当てられたライフ個数が減算され、ライフ個数が0になるまで復活が可能となっている。ちなみに、いずれのモードにおいても、チームメンバーが全員、ライフ個数=0となった時点でその陣営の敗北が決定する。 両軍のキャラクタにはそれぞれ基本能力の違いが設定されており、これが独自のゲーム性を醸し出している。 ●潜入スパイ側(Shadownetチーム) 潜入スパイ側は武装は軽く戦闘能力こそ若干貧弱だが、サム・フィッシャー譲りの肉体を駆使したアクションが行なえる。防衛傭兵側のキャラクタには到達できないような地点へジャンプしたり、よじ登ったりすることができ、マップ中の地形的優位性を最大限に利用できる特長を持つ。 また、マルチプレイに用いられるゲームステージマップも、シングルプレイヤーモードと同様、明暗コントラストがはっきりしたライティングが行なわれている関係で、影に身を隠せば完全に敵から姿を隠すことができる。 視点操作はシングルプレーヤーモード同様の全方位可変視点方式の三人称視点。特殊視覚装置としては、熱分布を可視化する感熱ビジョンと、シーン内の輝度を強調化する暗視ゴーグルを装備している。サム・フィッシャー感覚でマルチプレイを楽しみたいプレイヤー向きだ。
●防衛傭兵側(Argusチーム) 防衛傭兵側は重厚な武装に身を固めており、火器類も殺傷能力に優れている。その代わり身体能力に劣り、高い位置へよじ登ったりすることはできない。追いかけっこになったときには潜入スパイ側に追いつくことは到底無理だが、集中砲火を浴びせれば瞬殺も夢ではない。 基本的に敵を見つけたら撃ち殺せばよく、プレイ中の視点も一人称視点が基本となるため、まさにFPSそのままのプレイ感覚になっている。特殊武装の動体センサー付き地雷を敵が目的としているND133収容装置周辺にブービートラップとして設置することもでき、敵が見事にこれにはまってくれたときなどには格別の快感が味わえる。 特殊視覚装置は視界内の動いた箇所を強調化する動体感知ビジョン、潜入スパイ側の各種電子武装を感知して表示する電磁場ビジョンの2つを装備している。
■ 今作は前作にも増してのお買い得感有り
今作もシングルプレーヤーモードは、やり甲斐があり、前作と同様のスリルが味わえる。前作は石油コンビナート基地への潜入がかっこよくそして美しかったが、今作では列車への潜入がスリリングで爽快だ。ほかにも、アイディア満載のシチュエーションでのステルスアクションでプレーヤーを楽しませてくれる。 マルチプレーヤーモードは、間に合わせの「おまけ」ではなく、濃い内容が秀逸。「影に潜んで敵の裏をかく」、「潜んだ敵をあぶり出す」という対極した2つの視点からのステルスアクションが楽しめるというのは、まさにファンが待ち望んだ対戦モードといえる。今作は、前作にも増してお買い得な作品ということができると思う。 今回はXbox版とPC版が間をおかずに発売されたが、諸事情の関係で、日本国内では日本語マニュアル付きのPC版だけが3月26日に発売されている。前作は完全日本語版のXbox版も発売されているので、Xboxユーザーはメーカーの早期ローカライズ&リリースを待っていたい。
今作も重厚なストーリーが展開されるので、話の筋をしっかり理解するには高校卒業レベルの英語力は必須となる。ただし、ステージクリアの目的は常に画面に表示され、しかも簡潔な言い回しなので、「ゲーム中、何をしていいかわからない」ということはないはず。主要台詞は英語字幕が出るものの、キャラクタ同士の会話は音声のみで進行するため、ストーリーを100%理解するには、結局のところ高いヒアリング能力が必要になるだろう。前作の評判を考えれば、今作もぜひとも日本語版もリリースしていただきたいものだ。
(C) 2004 Ubi Soft、 Inc. All rights reserved. Ubi Soft Entertainment and the Ubi Soft logo are registered trademarks of Ubi Soft、 Inc. Splinter Cell is a trademark of Ubi Soft Entertainment、 Inc. All Rights Reserved. All other trademarks are the property of their respective owners Xbox is a trademark of Microsoft Corporation in the United States and/or other countries. Unreal Engine is a trademark of Epic Games Inc
□「Splinter Cell: Pandora: Pandora Tomorrow」のホームページ http://www.ubisoft.co.jp/splintercell/contents/index2.htm (2004年4月15日)
[Reported by トライゼット西川善司]
また、弊誌に掲載された写真、文章の無許諾での転載、使用に関しましては一切お断わりいたします ウォッチ編集部内GAME Watch担当game-watch@impress.co.jp Copyright (c) 2004 Impress Corporation All rights reserved. |
|