「Deus Ex: Invisible War」は、開発スタート時は「Deus Ex 2」と呼ばれていた作品だ。開発が進む段階で「2」が取り去られ、このようなタイトルになったが、基本的に「続編」という捉え方で問題はない(本稿では便宜上、前作を「Deus Ex 1」、今作を「Deus Ex 2」と呼称する)。 開発元Ion Stormによれば、「2」が取り去られた理由として「前作の発売から時間が経過しているため」、「前作の内容を知らなくても楽しめるため」、「今作が初めてXbox版としても提供されことに配慮して」といったことを理由として挙げている。 「Thief」シリーズなど、その独創的なゲームデザインで定評のある米国のカリスマゲームクリエイターの1人、Wallen Spector氏が手がけた作品として、昨年のE3のEIDOSブースでも注目度の高かった「Deus Ex 2」。果たしてどのような仕上がりを見せているのか、じっくりと見ていきたいと思う。
■ 「Deus Ex」とは?~前作との関係
前作をプレイしていない人は、この日本語版をプレイすることをお勧めするが、ここでも簡単に「Deus Ex」の背景から触れておこう。「Deus Ex」で描かれた世界はバイオ・ナノテクノロジーが発達した21世紀中期。人類は、急激に発展を遂げたテクノロジー技術によって多大な恩恵を受けると同時に、目に見えないまったく新しいテロリズムにも怯えることとなった。 事態を重く見た国連反テロリスト連合UNATCOは、テロ行為の撲滅のためにナノテクノロジーで人体改造を施したスペシャル・エージェントの特殊部隊を組織する。プレーヤーが扮するのは精鋭エージェントのJ.C.Denton。彼を操り、国際テロ組織に挑んでいくわけだが、捜査を進めていく段階で、彼はテロリズムを隠れ蓑にして秘密裏に推し進められている巨大な陰謀を知ることになる。J.C.Dentonの活躍の詳細は、完全日本語版をプレイして確かめて欲しい。 そして、今作「Deus Ex 2」は、J.C.Dentonの冒険から約20年が過ぎた未来が舞台となる。20世紀にその強大な力をもてあますこととなった原子力と同じく、この時代、一層進んでしまったナノテクノロジー技術に、人類は未だ困惑して向き合っているという状況だ。この混沌とした時代のある日、ナノテクノロジー産業が盛んな北米シカゴが、突如、ナノテク・テロによって完全消滅する。
今作でプレーヤーが扮するのは、TARSUSアカデミーシアトル校の訓練生Alex D。TARSUSアカデミーは、極秘任務を遂行する精鋭エージェントを輩出するために設立された訓練校だ。 起き抜けに自分の故郷シカゴがテロによって完全消滅したことを知らされるAlex D。感傷に浸る間もなく、TARSUSアカデミーは、謎のカルト集団からの襲撃を受けることになる。「Deus Ex 2」の物語はここからスタートする。 こうして2つの設定を見比べると、世界観が同じだけで、主人公も違うし、両作間の関連性が薄いように思えてしまうかもしれないが、実はそんなことはない。前作の主人公のJ.C.Denton、そして前作でも登場したその兄Paul Dentonの両名が、今作にもストーリーの根幹を揺るがすほどの重大な役柄で登場する。 Ion Stormは、連作感をなくすために「2」を廃したというが、今作を最後までプレイした筆者としては「完全な正統派の続編だった」という実感を得ている。たとえるならばスター・ウォーズやガンダムと同じような、今作はDeusサーガの1つであり、やはり今作をプレイするには事前に「1」をプレイすることを強くお勧めしたい。
■ 本当の意味でのロールプレイングが楽しめる作品
ゲームを開始する際にまず行なうのがキャラクタメイキング。具体的には肌の色3種類、性別2種類、計6タイプから選択する簡易的なものだが、名前はAlex Dに固定されている。「ストーリーベースのSFもので、しかも主人公Alex Dという名前が与えられているのに顔形や性別が選べちゃうの?」という疑問もごもっとも。多分名前は、男の場合はAlexanderで、女の場合はAlexandraになるのだと思われるが、とにかく男でも女でも主人公名はAlex Dになる。本作において主人公の性別、名前にはさしたる意味がないということは、「Deus Ex 2」のストーリーを進めていくうちにわかってくるはずだ。最後までプレイすると「このキャラクタメイキングにも、『Deus Ex 2』の謎を解き明かすヒントがあったのか」と思うかもしれない。 さて、「Deus Ex 2」をRPGと表現したのは何もキャラクタメイキングがあるからだけではない。ロールプレイングとは、すなわち「役割を演じること」である。「Deus Ex 2」にはベースラインとなる大局的なストーリーの流れがあるにもかかわらず、各状況下で主人公キャラAlex Dにプレーヤー自身の考え、判断を反映させることができるのだ。ゲーム世界での「役割」をプレーヤー自身の考えで「演じる」ことができるということだ。 たとえば、与えられる任務を遂行する上で、邪魔になる障害が出てきたとする。それを排除するか、回避するかはプレーヤーの判断に委ねられる。とにかく殺しまくりのダークヒーローを演じてもいいし、非常に薄っぺらで主観的な正義感の下に「悪人しか殺さない」を気取るジェームス・ボンドになりきってもいい。その行動1つ1つがゲーム世界に少なからず影響を及ぼし、次に与えられる任務の種類や、登場するNPC達の態度が微妙に変化してくるのである。 一本道ストーリーの展開に慣らされた我々日本人ゲーマーは、常に最良のシナリオ進行を追い求めてしまうため、ゲーム開始直後から降り掛かる重大な選択肢の応酬に戸惑いを隠せないことだろう。かくいう筆者もまさにその1人で「どう行動すればみんなが幸せになれるのか」という半人前ヒーローのように考え込んでしまい、最初ちっとも楽しくなかった。 実は、「Deus Ex 2」世界には最良のシナリオなどは用意されてはおらず、誰かが幸福になれば誰かが必ず不幸になるという、現実世界の縮図(?)が再現されており、どうシナリオを進行させても一部ハッピーエンドであり一部バッドエンドになるのだ。「そういうゲームなんだ」と割り切って「役割を演じる」ことに没入したほうが、「Deus Ex 2」の世界が楽しめる。実際、筆者もそう割り切るようになってから、「Deus Ex 2」のおもしろさが途端に実感できるようになった。 たとえば、ある人物から暗殺を依頼されるシナリオ。指示通り暗殺を成功させれば当然その依頼主から報酬が得られる。もし、プレーヤーがその時点で、この依頼主の行動に疑惑を持っているならば、堂々とその暗殺対象人物のところへ赴き、「あなたの殺しを誰々から依頼された」と打ち明けてしまっていい。相手はその警告に感謝しつつ、倍額出すから逆にそいつを殺してくれと頼んできたりする。両方の依頼を保留しておき、両者の関係や彼らを取り巻く人物関係を明らかにしてから、最終的にどちらを殺すか判断してもいいし、あるいは、どちらも殺さない結末を選択してもいい。 総じて「極力人殺しを避ける」行動をとっていった方が戦闘シーンが減るため、ゲーム進行面の難易度は下がる傾向にあるが、その分、シナリオ的には煮え切らないものになる。「Deus Ex 2」は、物語を仮想現実として楽しむというよりは、Alex Dの立場で「Deus Ex 2」の世界を生き抜いてみるといった感じになる。ストーリーの起伏はプレーヤーにある程度、委ねられていることに留意しておく必要があるかもしれない。 「じゃあ、プレーヤーの行動如何では、まったくつまらないゲーム展開を迎える場合もあるのでは?」と危惧する読者もいることだろう。確かに局所的には「そうだ」といえる。しかし、プレーヤーの一連の行動の積み重ねによって、半ば強制的に、一本道なシナリオをとらざるを得ない状況に追い込まれることも多い。その場合にはジェットコースター的な、仕組まれた緩急を突き進んでいくドラマチックなストーリーが展開するので、その心配には及ばない。
「Deus Ex 2」を楽しむ上でひとつアドバイスしたいのは、なるべく早い段階でゲーム中に出てくる様々なNPCの中から、お気に入りのキャラクタを何人か見つけるということだ。それらを守るとか、助けたいとか、といった思念を原動力にした方が、行動の選択がやりやすいし、自然と物語にも緩急を感じられるようになる。人生も「Deus Ex 2」も「愛と友情」を大前提とした方が楽しくなると言うことなのだ(!?)。
■ 善悪は表裏一体~各組織とどうつきあっていくべきなのかが悩ましい 「Deus Ex 1」で描かれた事件の影響を受けつつ、混沌とした状況に陥っている「Deus Ex 2」の世界。ここでは、そんな中でカリスマ的なリーダーが独特な理念を掲げ、人類を導くための党派を組織している。それぞれの組織は、主人公Alex Dの才覚に興味を抱いており、ことあるごとに干渉してくるのだ。 それぞれが怪しげなバックグラウンドを持っているので、一概にどれが善か悪かの判断はできないのだが、ゲームを進めていく上で、いつの間にか、いずれかの党派のために行動している自分に気が付くことだろう。
他にも、いくつかの組織が存在するが、いずれもなにやらちょっと後ろ暗いところがある。Alex Dもそうだが、彼の友人NPC達もゲームが進行していくにつれて、各自の判断を下にいずれかの組織に荷担していく。場合によってはAlex Dと敵対してくることもあるだろう。 お気に入りのキャラクタが見つからなければ、プレーヤーの考える理想に近いスローガンを掲げる組織に荷担するのもいいだろう。最初は賛同できる組織だと思っていたのに、突然エキセントリックで過激な任務を依頼してくることがあるが、その都度、別の組織に優位な行動をとることも可能だ。その「裏切り」の重度にもよるが、一回の寝返り行動程度では、プレーヤーと各組織の友好敵対関係は保留されることが多いようだ。いずれにせよ、「なにをすると誰と敵対するか」をよく考えて行動する必要がある。 その判断材料となるのは、ゲーム中に登場するNPC達との会話や、ゲーム世界に散らばっている資料アイテムの数々。言うのが大部後回しになってしまったが、その理解には高校卒業レベルの英語読解力は最低限必要で、「英語が苦手」という人にははっきりいって「さっぱりわけわからん」展開になってしまうかもしれない。
ゲームオプションで、会話音声に対しては「英語字幕」を入れることができるので、英和辞書は常に手元においてプレイすれば、なんとかなるはずだ。ゲームのテーマがテーマなだけに、わざと難しい単語や言い回しを多用しているので、英語の勉強にはなる。とはいえ、もちろん日本語版の発売には期待したいところだが……。 ■ バイオ・ナノマシン薬剤で人体改造してパワーアップを図ろう 前述したように「Deus Ex 2」のゲームシステムはFPSスタイルを踏襲している。[W][S][A][D]で前後左右移動、マウスで視点移動でマウスボタンで攻撃という伝統的なFPS操作系を採用している。やや変わっているのはマウス右ボタンで、こちらは「ゲーム世界のオブジェクトに干渉する」といった操作系になっている。具体的にはアイテムを持ち上げたり、ドアを開けたり、NPCと会話したりといった操作に対応している。 ジャンル的にはアクションロールプレイングゲームに分類されるであろう「Deus Ex 2」だが、戦闘シーンでは、「照準を合わせて銃撃」という、いわゆるFPSそのもののゲーム性になっている。攻撃対象となる敵は、大別して生身の人間とロボット系の2種類があり、生身の人間には実弾系の銃撃が、ロボット系に対してはEMP(電磁波系)の攻撃が効果的となっている。 携行できるアイテム・武器の数には制限があり、武器は手榴弾のような投擲兵器と銃器系、そして汎用アイテム、全て併せて12種類までしか持てない。投擲兵器や汎用アイテムのような小型アイテムに限り、完全同一種類については一定数個のストックが可能となっている。体力回復アイテムを1種類、バイオモッド(後述)回復アイテム1種類、解錠アイテムを1種類の携行は必須なので、武器類は9種類しか持てない。登場する銃器や武器はそれ以上あるので、戦況に併せて捨てたり拾ったりと言った判断が必要になる。
どう人対改造を行なうかは、バイオモッド画面で設定する。運動能力を向上させるもの、透明化などのステルス能力を身につけるもの、特殊な攻撃力を獲得するもの、脳とコンピュータを直結させるインターフェイスを搭載するといったものがあり、人体のどこにナノマシンを適用するかで獲得できる特殊技能の種類が変わってくる。 ナノマシンが適用可能な部位は頭蓋、腕、目、足、骨格で、合計5種類の各部位に対応した特殊技能が身につけられる。なお、暗部を照らし出すサーチライト機能は固定武装として備わっており、これを含めてゲーム中は合計6種類のバイオモッド能力を使い分けることができる。 各部位に適用できるバイオモッドは一種類のみで、同種のバイオモッドを続けて適用するとその性能が向上する。たとえばコンピュータ直結能力ならば、相手を電脳汚染させたり、ハードウェアをハッキングする際の所要時間が短縮される。なお、別の種類のバイオモッドを適用すると、それまでその部位が発揮していたバイオモッド能力は消滅してしまうので注意が必要だ。 ナノマシン薬剤は非常に希少価値の高いもので、ゲーム序盤の任務ではそれ自体を獲得することが最終目標となっていたりする。ゲーム中盤以降では購入することも可能だが、その価格は安くない。よってプレーヤーはどのようにAlex Dを改造していくかをよく考えてバイオモッドを適用していかなければならない。 なお、ナノマシン薬剤には公式(?)版と裏版(Black Market)が存在しており、裏版の方が攻撃的なバイオモッド能力が身につけられる傾向にある。同一部位に公式版と裏版の両方を適用することはできないので、どの部位に公式版を適用しどの部位に裏版を適用するかは、ゲーム開始前にマニュアルを見てある程度把握しておきたい。 敵ロボットをハッキングして自分の配下にできる「BOT DOMINATION」、各種コンピュータやセキュリティに介入できる「NEURAL INTERFACE」はゲームを進める上で必須とも思える能力だが、これらのバイオモッドは裏版ナノマシン薬剤を使わないと身につけられない。ちなみに、裏版バイオモッドというのは名前こそ怪しげだが、隠れコマンドで出現するとかそういう物ではなく、普通にプレイしていても入手可能だ。安心して欲しい。 ところで、「Deus Ex 2」をプレイしていて、その時点でのAlex Dのバイオモッド能力では任務遂行が難しい、あるいは向いていないのではないかと思えるケースがあるかもしれない。温存していた薬剤があれば、その局面で必要なバイオモッド能力へ切り換えるのも一策だが、「せっかく性能向上させたバイオモッド能力を上書きしてしまうのは惜しい」というときには、別の任務遂行方法を探ってみるのもおもしろい。 行動の自由度が高い「Deus Ex 2」では、任務の遂行方法は一種類だけではなく、様々なクリア経路が用意されているのだ。前出で例示したような、寝返ったり、敵味方を欺くといった手段として発想を転換するだけでなく、移動経路も複数用意されている。 入り口付近に強力な砲台による防衛ラインが構成されている部屋への侵入は、透明化バイオモッドで突破するがセオリーだ。しかし、もし透明化バイオモッド能力がなくて、コンピュータハッキング能力があるのならば、この砲台を制御するセキュリティ・コンピュータを見つけ出して、ここへハッキングして砲台を無効化する、という経路も用意されている。また、そのどちらの能力もない場合、多少回り道になるが、正面突破を諦めて、その部屋へ通ずる排気口を探し出してそこから侵入するという手もある。「Deus Ex 2」では、いかなる不利な状況に追いこまれても解法は用意されているのだ。 現在、「Deus Ex 2」はPC版の他、北米ではXbox版も発売が開始された。PC版、Xbox版共に今のところ英語版のみで、日本語版の発売は未定となっている。前作のファンは当然として、サイバーパンクなSFファンにはもちろんのこと、撃つだけのFPSに興味を失ってしまった3Dシューター、一本道ストーリーの過保護ゲームシステムに刺激を感じられなくなったRPGファンにも、お勧めしたい。
Deus Ex: Invisible War. (C) 2003 Eidos Inc. Developed by Ion Storm. Published by Eidos Inc. Deus Ex: Invisible War、 Ion Storm and the Ion Storm logo are trademarks of Ion Storm. Eidos and the Eidos Inc. logo are trademarks of Eidos Group of companies. All Rights Reserved.Microsoft、 Xbox、 and the Xbox logos are either registered trademarks or trademarks of Microsoft Corporation in the U.S. and/or other countries and are used under license from Microsoft. The ratings icon is a registered trademark of the Interactive Digital Software Association. All rights reserved.
□Eidosのホームページ http://www.kids-station.com/game/ □「Deus Ex:Invisible War」のホームページ http://www.dxinvisiblewar.com/ (2004年2月13日)
[Reported by 西川善司]
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