★PS2ゲームレビュー★

ハイスピードバトルをPS2でも体感!!
「頭文字D Special Stage」

主人公・藤原拓海(左)とライバル・高橋啓介(右)がパッケージイラストに描かれている
 業務用で展開していた株式会社セガ(制作:株式会社セガ・ロッソ)の「頭文字D」シリーズが待望の家庭用への移植。オリジナルの「ストーリー」モードをひっさげ、遊びごたえをましての登場となった。

 しげの秀一氏が描く「頭文字D」についていまさら語る必要はないが、この作品がゲーム化されたのは今回が初めてではない。プレイステーション版、セガサターン版、ゲームボーイアドバンス版、そしてアーケード版と登場してきたが、いずれも開発元は異なっているし、ゲームシステムなども異なっている。

 PS2版は、アーケード版から内容を引き継ぐモード「公道最速伝説」、そしてオリジナルの「ストーリー」モード(設定課題をクリアし、主人公・藤原拓海の戦いをフォローする)、「タイムアタック(コース、時間帯、天候ごとにクリアタイムを競う)」モード、「池谷先輩の車紹介(ゲームに登場する車種の解説)」といったモードが用意されている。



原作に取り上げられる車の中古価格が上がったりするほどのブームとなった「頭文字D」

■ 「峠」を舞台にしたレースゲームを作り上げる難しさ

 「頭文字D」は、公道(峠)の世界を極める走り屋たち、俗に言う「峠族」の世界を描いた作品で、圧倒的スピードで峠を疾走するマシンはもちろんのこと、そのバトルに関わるキャラクタたちの人間模様を描いているあたりが人気の秘密。まず、この作品をゲーム化しようと思ったとき、まず誰もが最初に頭に浮かべる企画は、「レースゲーム」だろう。あまたあるレースゲームの骨格を元に、峠を走るというシチュエーションを作り上げることができれば、失礼な言い方をすれば「はい、できあがり」というものだ。この王道パターンは、今ある原作付きレースゲームもそうだし、「頭文字D」ファンも望んだ形態なのだろう。

 しかし、それには大きなリスクが伴う。まず、峠を舞台としたレースゲームを作り上げるには、「どこまで峠を再現するか」、「車をメインに峠を作るか、峠をメインに車を作り上げるのか」という問題が待っている。過去の「頭文字D」のゲーム化は、この時点でかなり苦労があったと思われるし、実際にできあがったものも、一プレーヤーからは満足のいくものではなかった。プレイステーション 2をプラットフォームに選んだ家庭用も、業務用では描画に定評のあるNAOMI2基板を使用していることを考えても、そう簡単には“峠を再現”することはできなかったのではなかろうか。

 考えてみて欲しい。峠といえばアップダウンがあり、しかも周回コースは作れないのである。ループコースよりもデータ量は増えることは間違いない。また、下りのストレートは圧倒的な視界が広がり、上りは先が見えないブラインドコーナーが続出する。このことは、描画処理の情報量を激変させる。しかも、多くの峠は対向1車線とコース幅も狭い。さらに、昼と夜というシチュエーションを変化させることにより、「コースの中で何を再現し、何を省略すればいいか」、「どこまでの視界を描画すればいいのか」のさじ加減が非常に難しくなる。また、コース幅が狭ければ、車のサイズやコースアウトしたときの処理も問題になる。ガツガツと減速させればプレイ感が不快極まりなくなるし、かといって何もしなければ俗にいう「壁ターン」でそこそこタイムが稼げてしまう。

 セガによる業務用、PS2版とも、この問題点を見事にバランスよく切り分け、ハイスピードな峠のバトルをアクションゲーム的対処を加えながら見事にゲーム化することに成功している。コースアウトはその後の加速を一定時間鈍らせることで対処し、適度のコース幅を確保しながら、コースサイドの木々を上手く描画し、コースレイアウトをバランスよく構築することで、「頭文字D」のエッセンスを活かしながら、ゲームとしてまとめ上げるところまで持っていっている。PS2版も処理落ちは皆無だし、操作に関してもストレスを感じることはない。プロジェクトのトータルコントロールがうまく働いているということの証明であろう。

 シミュレーション系のレースゲームに慣れている人には、この操作感覚は「軽すぎる」と思うかもしれない。しかし、このレイアウトに対応するには、これぐらいクイックでないと、秋名や赤城の連続ヘアピンなど、アクションとコースのバランスが取れないのではないだろうか。上りのドリフト時のタイヤが車体を巻き込むような走行感覚は、「リッジレーサー」や、「デイトナUSA」をところどころ思い起こさせる挙動に見えるが、そこまでゲームっぽくはなく、「車を操る楽しさ」は失われてはいない。

ストレートをどこまで描画するかが処理速度に大きく影響を及ぼすゆえに、峠ゲームは難しい 挙動はクイック傾向にあるが、コースレイアウトを考えると必要十分 テールランプが流れるなど、リプレイのエフェクトもきちんと作られている


■ 原作のビジュアルとアニメのビジュアル+ボイス+サウンドを上手く取り入れて世界観を作り上げる

 前項で上げた「頭文字D」の魅力のもうひとつ、「バトルに関わるキャラクタたちの人間模様」に関しては、原作のカットをメインとした導入部分に加え、その後マンガタッチのアニメーションがデモシーンで展開する(ストーリーモード時)。ストーリーのフォローは十分なされており、バトルに臨むシチュエーションはしっかりと作られている。原作のカットを多用することで、ファンは違和感を感じることはあまりないはずだ。このあたりも、原作を大事にしてゲーム化されていることが感じられる点だ。各モードに移行する際のローディング画面にも、かなりの量のしげの氏のカラー原稿が収録されている。

まずは原作からのカットでデモがスタートし、アニメーションが取り入れられたアニメ調のデモへと移行。そして条件が提示され、バトル開始という流れ。原作ファンにも違和感のないビジュアルがそろえられている

 さらに、このゲーム、キャラクタがとにかくよくしゃべる。お互いの状況に呼応するようにライバルが実況中継よろしくしゃべりまくる(すべての状況にマッチしたセリフがチョイスされるわけではないが)うえに、原作どおりの状況になるとお決まりのセリフがあったり、主人公・拓海もしゃべってくれる。キャラクターズボイスを担当しているのは、アニメ版の声優さんたち。さらに、バトル時のBGMはユーロビートをぎゅっと集めた最大36曲。これもアニメ版と同様、avex traxのものを採用している。ユーロはバトルにしっくり来るジャンルのひとつで、おかげでついつい手に汗をかいてプレイしてしまう。ファンならアニメ版もチェックしていたと思うので、このサウンドとボイスの導入は、この世界観を作り上げるための最も確実な手段だといえるだろう。なお、本作は光ケーブル経由でのサウンド出力に対応していない。光ケーブルを使用しているユーザーは注意が必要だ。

Stage5「池谷の貴重な体験」では、拓海の運転に悲鳴をあげる池谷先輩がしゃべりまくる

デモシーンでもアニメ版同様の会話が聞ける

池谷先輩は「車紹介」でも大活躍する



■ 原作の細かいシチュエーションを研究して作られた「ストーリー」モード

 家庭用オリジナルの「ストーリー」モードは、原作にのっとったストーリー展開で、バトル1戦1戦に条件が設定されている。第1章「秋名のハチロク」編だけをみてみても、Stage1「ハチロク買おーぜ!」では、原作で主人公・藤原拓海の父である藤原文太が拓海への課題として配送の度に課していた“「コップの水をこぼさず」秋名湖ふもとのホテルまで豆腐を届ける”という課題を、「壁にぶつかるとコップの水がこぼれる。水の残量が0%になると失敗」と条件を若干アレンジしながらも取り入れている。面白かったのはStage13「拓海くん 運転かわって!!」で、コーナリング時のGを茂木なつきの感情を“なつきメーター”で表し、それを100%まで高めればOKというもの。ほかには、第2チェックポイントまで前に出てはダメで、そこから逆転しなくてはならないStage21「激突するプライド!!」など、原作のシチュエーションを生かしたルールが家庭用ならではの楽しみになっている。

 Stage8「狂気のデスマッチ」、Stage10「熱風!! 激走!! 碓氷峠」など、原作ではリタイアしてしまうライバルも、条件を合わせれば(勝利条件を満たせば)ちゃんとリタイアする。また、ハチロクがエンジンブローしてしまうStage14「玉砕上等 火の玉バトル」では、勝利条件を満たすことによってストーリーが進行し、ハチロクにニューエンジンが搭載され、次のStage15「封印からの開放」では、ニューエンジンの本来のレブリミットを知らずに、能力を封印されたままでのバトルを戦わなければならない。原作を知っている人なら、まさに「待ってました!」といわんばかりのシチュエーションがゴロゴロしているわけだ。

 ただ、Stage16の「覚醒の予感」は、同じコースを往路、復路、さらに往路と3回連続で、しかもスリッピーかつ狭い路面を連続で3本走らないと勝てないちょっとシビアなステージ。3本それぞれ課題が異なり、どこで負けてもStage16の頭からやり直しという厳しさだ。ぶっちゃけ、原作どおりに「抜いたら勝ち」というルールにしてもらったほうがまだすっきりしたかもしれない。インを閉めて走り続けるのは、個人的にヘタレには正直厳しい。CPUカーはキレイにインを閉めて走るうえ、コース幅がないとごつごつとCカーにぶつかるだけで、とても気分が悪いものだ。これは、このゲームのみならず、今までの3Dレースゲームすべてにいえることだが。

原作どおりリタイアするようにできているので、同じような状況に持ち込んでみるのも悪くない これがなつきゲージ。シルビアを抜くと、ちゃんと「アッカンベー」するなつき。芸が細かい Stage14では条件を満たすとハチロクのエンジンがブローしてしまうところも再現されている

 業務用から引き継いだ「公道最速伝説」モードでも、途中、高橋啓介、涼介兄弟とのバトルは、それ以前とはひとつ次元の違ったタイムを要求されることだろう。何度かプレイして勝てないようなら、「タイムアタック」モードで練習してみるのもいい。「公道~」では、レースに勝利するごとにチューニングポイントがたまり、マシンをパワーアップしてくれるが、「タイムアタック」モードでもこのポイントを稼ぐことができる。初見でコースをさっくり攻略できる凄腕の人には関係ないが、筆者は最初、高橋兄弟戦で結構苦労した。

スクリーンショットではあまり気にならないようだが、実際の画面で背後に付かれると非常に見えにくい

 また、道中のライバルカーの動きが、露骨に早かったり遅かったりするのも、もうちょっとこちらのペースにリニアな動きにして欲しかった気がする。どうやらセリフのいくつかと動きが連動しているように感じられたが、背後に付かれてハイビーム状態の光軸が重なると、ライトの照射範囲外が暗くなり、コースの先がまったく見えなくなってしまうのが非常につらい。上りであくせくするハチロクのようなNA車の場合、腕によっては追いつかれてしまううえに、先が見通せないのは非常にストレスになる。光軸同士が重なれば、現実もそれに近い状態になるが、ここまで強烈に再現されると、ちょっとしょんぼりな感じだ。

 まあ、走りこんでコースを覚えてしまえば問題ない、といわれればそれまでだが、競り合いになって車が接触すると、コントロールを持っていかれてしまうことが多いため、その後のフォローが重要になる分、コースの状況が見えないのは非常に厳しい。レースゲームにあまり自信がない人は、難易度を下げてプレイすることをオススメする。



■ さらに高みを目指して欲しい作品

 キャラゲーの範疇に入るであろう作品だが、セガらしく走りは硬派で、演出は控えめ、といった感じだろうか。難易度を調節すれば万人にオススメできる一作に仕上がっている。コツはとにかく「ぶつからないように走ること」。プレイ中、「ハチロクは重力の恩恵を受けなければただのドンガメだ」という須藤京一の言葉が何度頭をよぎったことか。上りルートでのコースアウトは禁物。その後一定時間加速できないので、下りよりも更にペナルティ感は強い。ぶつけないように走れるようになってからが本領発揮だ。インターネットランキングにも対応しているので、走りこんだらタイムを登録してみよう。今現在もすごいタイムが登録されているのだが……。

 ただ、原作どおりのシーンを演じてはくれるものの、ぶっちぎってしまうと勝手に後ろでリタイア、という現象が起こってしまうのは残念だ。カットインでクラッシュシーンを映像として見せてあげるなど、もう一息、車に演技をさせてあげてほしい、というのが今後の要望だ。スピンするなら直前のシーンから、キャラクタのシフト操作のシーンだとかステアリング操作のシーンなどを加えてもらうだけでも、結構違った雰囲気になってくるのではないだろうか。

「真・妙義」のコースレイアウト。タイトコーナーの連続で、最初はとても最後まで走りきれないやりこみ度満載のコースだ
 また、表のコースが終わると、さらに「真」の文字が付いたコースがプレイできるようになる。頭がおかしくなるぐらいのコースレイアウトで、とてもじゃないが初見ではクリアできなかった。遊び進めていくと、こうした高いハードルを積み上げていくのはセガ伝統のやりこみ要素といえそうだが、「池谷先輩の車紹介」のほかにも、原作のユーモラスな部分を受け継いだおまけ(例えば“拓海のドラテク講座”とか)などが欲しかった。キャラゲーとしての側面で、同じ土俵でプレーヤーをより楽しませる、へたくそにも楽しめる仕掛けがもっとあっていいんじゃないだろうか?

 それから、ロード時間ももう少し短縮してもらえるとありがたい。セリフとBGMのストリーミングのせいだろうか、リトライ以外では必ずロードが入ってしまうため、何度も同じコースをやり直すのは少々根気が必要だった。走っていてしくじったら、見切りを早くつけることで解消される話なのだが。

 よく、「レース、シューティング、格闘ゲームの衰退」という話を耳にするが、ただコースと車とプレーヤーの戦いになりがちなレースゲームを、もうひとつ、ふたつとステップアップさせていかなければ、単なる原作+レースというゲームの形態を超えないと思う。例えば上でも触れた「CPUカーとぶつかる」あの感覚は、チューニングが施されているものの、「人間くさいCPU」とまで感じさせるものに私は出合ったことがない。FPSのBotなど、CPUとして優秀な動きをするものが見かけられるようになってきたからこそ、レースゲームにもそれを求めてやまない。ましてや、対戦とチューニング+カードという要素を付加してヒットした業務用から対戦要素をオミットしたPS2版は、よりプレーヤーを「盛り上げる」ための何か=時間単位でのより一層の盛り上がりを模索していって欲しい作品だと感じられた。遊ぶ要素としてはてんこ盛りに用意されているPS2版だけに、「ここまで遊べるんだから、もう一声」と言ってしまうのは贅沢なのだろうか?

(C) しげの秀一/講談社
(C) SEGA ROSSO/SEGA, 2003
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□セガのホームページ
http://www.sega.jp/
□セガ・ロッソのホームページ
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□「頭文字D」GAMES オフィシャルサイト
http://www.segarosso.co.jp/INITIALD/
□関連記事
【2002年12月3日】PS2「VF4 EVO」、「頭文字D Special Stage」発表! セガ「2003 春商戦 戦略発表会」開催
http://game.watch.impress.co.jp/docs/20021203/sega.htm

(2003年7月3日)

[Reported by 佐伯憲司]


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