2002年、欧米の各ゲームメディア、ゲーム関連カンファレンス/コンベンション等で、グラフィックス賞を総なめにしたタイトルがあった。それがUbi Softの「Splinter Cell」」だ。グラフィックスだけでなく、そのゲーム性も高く評価されており、見てよし、遊んでよしの秀作となっている。 今回のレビューではこの隠れたビッグタイトルの魅力をゲーム性とグラフィックスの二局面から紹介していきたいと思う。RADEONやGeForceをもてあましているユーザーはぜひともこのタイトルを買って活を入れて頂きたい。なお、この作品はもともとはXbox版としてリリースされたが、日本でのXbox版の発売は未だ未定。結局、オフィシャルに日本で手に入れられるのはPC版のみということになる。ちなみにPC版は現在、UbiSoftの日本法人が日本語マニュアル付き版をリリースしており、また、5月には完全日本語版の発売も予定されている。
■ 監修に「レッドオクトーバーを追え」のトム・クランシー
これを聞くと同じくトム・クランシーものの大ヒットゲーム作「Rainbow Six(レインボーシックス)」のような本格派コンバットシミュレーション(コンバットシム)系を想像してしまう人も多いだろうが、「Splinter Cell」は事前に部隊の進路を決めたり、味方を指揮したりといった要素は一切なく、プレーヤーはプレーヤーキャラクタだけを動かして、降りかかる難題について対処していけばいい。
トム・クランシーの冠が付いているものの、軍事関連の知識は一切不要で、カジュアル・ゲーマーにも難なく入り込める作品となっているのだ。もともとXbox用、すなわち家庭用ゲーム機向けタイトルとしてデザインされていることもあってか、軍事もの色は薄めで、むしろプレーヤーが操作する主人公サム・フィッシャーのヒロイズムの描写の方に力が入っている。
■ ストーリー~主人公は年齢不詳のオヤジ、そしてリアリティ溢れるバックグラウンド
そして、このサード・エシュロンには、単独で任務を行なう、スプリンターセル(「Splinter Cell」)と呼ばれるエージェント達がいた。スプリンターセル達は非合法な諜報活動を行なうため、任務の失敗は許されず、また任務を遂行中であることをいかなる部外者にも悟られてはならないという、厳しい条件の下で活動を強いられた。スプリンターセルはトップエージェントの中のトップ達なのだった。 このスプリンターセルの一員、主人公サム・フィッシャーは、冷静沈着な精神力と高い戦闘能力を兼ね備えたベテランで、数々の困難なミッションを生き抜いてきただけでなく、そのどれをも成功に導いてきたという輝かしい経歴を持つ。そんな彼に、ある日、サード・エシュロン本部から“きな臭い”任務の要請が下る。 それは消息を絶った2名の中央情報局(CIA)エージェントの「状況確認」というものだった。救出ではなく「状況確認」。場所は旧ソ連のグルジア共和国。面積にして日本の1/5程度しかないこの小国に独裁体制を敷くニコラーゼ大統領は、アメリカに強い敵対心を持っていることからCIAに内偵されていた人物だった。連日、精力的に移動し暗躍するニコラーゼ大統領、そしてこれに同調するかのように、日に日に活発な動きを見せているグルジア軍部。サムはこの任務が単なる「状況確認」で終わらないことを予感していた……。 というまるでハリウッド映画のようなプロローグで物語がスタートする。ちなみにトム・クランシーは「Splinter Cell」という小説は執筆していない。プレーヤー扮するサム・フィッシャーは、クールというよりも冷徹な雰囲気を漂わさせた、007ジェームズ・ボンドとは対照的な人物として描かれている。このあたりは硬派なトム・クランシーもののテイストをしっかり継承しているといったところか。
サムはゲーム中も余計な会話をほとんどせず、常に沈着冷静、合理的な判断でミッションを遂行していく。主人公が日本のゲームにありがちな“若ハンサム男”ではなく、“年齢不詳のオヤジ”というところが、逆に渋くてかっこいい。
■ 日本人にもプレイしやすい3人称視点を採用 ストーリーを見てもわかるようにサムの任務の基本は隠密行動。よって、そう、ゲームタイプとしては想像の通り「敵地に潜入し、敵に悟られないように目的を達成する」というパターンのスニーキング・アクション・ゲームということになる。 「No One Lives Forever」シリーズもこのジャンルに属するタイトルだが、あちらは一人称視点を採用していた。これに対し、「Splinter Cell」は、“日本人が大好き”な三人称視点を採用。やはり、自分の姿が「今敵に見えるかどうか」といった判断はやはり三人称視点の方がわかりやすい。 さて、主人公サムは高い身体能力を持っていることから、ゲーム中、様々な過激な肉体アクションで困難に立ち向かうが、この三人称視点システムのおかげで、プレーヤーはそうしたサムの肉体演技を特等席で見ることができるのである。 異常とも思える姿勢を保持して虎視眈々と敵の様子をうかがう中年オヤジの主人公が、心を奪われそうなほど美しい背景グラフィックスの中に溶け込んで見えるビジュアルはまさに新感覚。筆者などは、三人称視点でよかった、と安堵の息を漏らしてしまったほどだ。自キャラのアクションの痛快感を堪能するといった要素はジャンルこそ違うが同じPCゲームのヒット作である「Max Payne」に通ずるものがある。
なお、ゲームシステムこそ三人称スタイルだが、インターフェイスは、移動を[W][S][A][D]キー、視点移動をマウス操作、銃撃/打撃をマウス左ボタンで行なうという、一人称シューティング(FPS)スタイルを踏襲している。
■ 基本的なゲームの流れ
サムの行動は敵に「見られちゃいけない、知られちゃいけない」という、どこかで聞いたことのある歌詞のような条件が与えられているので、常に人目に付かないところを、しかも静かに移動しなくてはならない。 その判断の助けになるのが、ゲーム画面右下側にあるステルスメーター(Stealth Meter)だ。ゲージが左に触れていればいるほどサムの姿は他人から見えにくくなっていることを表しており、明るい照明の下にいるとゲージは右に触れ、周囲の明るさに応じてゲージは左右に動くことになる。 場所によっては、銃撃等でその光源そのものを破壊/排除することも可能で、明るい部屋を強制的に暗くしてしまうこともできる。これは後述する卓越したインタラクティビティを持つグラフィックスエンジンがあってこそなしえた「Splinter Cell」特有のゲーム性だといえる。 また、歩行については、早く移動すれば足音が大きく、ゆっくり歩けば足音が小さいというシステムになっている。足音が大きいと敵に察知されてしまうが、かといっていつもゆっくり歩いていればいいというものではない。左右に首を振る監視カメラの視線を迂回して移動する際には大胆に走り、敵の背後をこっそり通り過ぎるときは忍び足で進むといった使い分けが必要になるのだ。 ちなみにこの歩行速度はXbox版ではアナログスティックの倒し具合で加減ができたが、PC版は移動キーがキーボードに割り当てられているのでそれができない。そのため、PC版ではマウスホイールの上下で、移動速度を数段階に調整できる操作系を採用している。 さて、このまま進んではどうしても敵の目に触れてしまうといった状況では、近場に落ちている空き缶等を投げて敵の関心をそちらに向けたり、その場で走って物音を立ててこちらにおびき寄せたりといった戦術が有効になる。 おびき寄せた敵への攻撃は銃撃、打撃といった選択肢がある。いずれにせよ、攻撃を受けた敵はサムのことを侵入者と認識して反撃してきたり、あるいは逃げて仲間を呼んだり警報をならそうとしたりする。ミッションによっては警報ブザーを鳴らされた時点でゲームオーバー、ということもあるので、攻撃手段は慎重かつ確実に行なわなければならない。 一撃で敵を殺すには頭部への銃撃が有効だが、ミッションによっては殺傷を禁じられる場合もある。そうしたケースでは打撃で気絶させるしかない。しかし、相手が屈強の軍人だったりするとパンチ一発では気絶させられない。そういう時には、暗がりの背後からこっそり忍び寄り、頭部を強打してやるのだ。 また、敵が複数いて、なおかつ激しい銃撃戦が予想される場合には、1人を背後から羽交い締めにして、これを人盾にして敵の銃撃をかわしつつ攻撃するなんていうヒーローらしからぬ行動も取れる。このあたりのアクションはサムの冷徹ぶりが見て取れる場面だ。 殺した敵、気絶させた敵は放置しておくと、別の敵に見つかってしまうので、スニーキングアクションではもはやお馴染みの「死体隠し」を行なう必要がある。これは基本的には暗がりや空き部屋に持っていくだけでいいのだが、死体を担いでいる間は移動速度が著しく遅くなってしまうので敵に見つかりやすくなる。注意が必要だ。
ミッションにもよるが、サムに与えられる武装は銃器、キーピック(鍵を開ける器具)、集音装置(マイク)、光ファイバーカメラ、暗視スコープ、サーモ(感熱)スコープなど。敵の殺傷は最低限に抑えて必要な情報を持ち帰ることを主としているので、NOLFのような「ネコ型爆弾」とかそういった派手なスパイガジェットはなく、実用優先の近代装備がメインになっている。また、基本的にミッションごとに与えられる武装は固定なので、ゲーム開始前に面倒な武装選択シーンはない。ゲームの保存は随時行なえる上、基本的にハマリはない。こうした点もカジュアルゲーマーにはありがたい。
■ ゲーム性に関しての総括
「『メタルギアソリッド』(コナミ)と何が違うのか」と聞かれれば、確かに「似ているかも」と言わざるを得ない。しかし「真似」とか「パクリ」とかそういう低次元の言葉が「Splinter Cell」にふさわしくないのは実際にプレイしてみるとよく分かると思う。 その理由として、まず、筆頭にあげられるのが、動的なライティングシステムを採用したことによって実現された、リアリティ溢れる高い次元でのアクション性だ。光と影を自在に操り、暗視スコープ視界で敵の背後に忍び寄っていく時のスリル感は「Splinter Cell」特有のものだし、感熱スコープを使用して壁越しに敵の位置を把握したり、リアルタイム生成される影を見て、その敵の位置を察知したりといった要素は表現としてのリアルさとプレイする楽しさの両方をプレーヤーに与えてくれている。 そして、設定のリアルさ、登場するキャラクタ達の動きのリアルさ、そしてグラフィックスのリアルさが重厚かつ厳格な雰囲気を漂わせているのに、ゲームプレイ自体そのものはカジュアルにやれてしまうというところも高く評価したい。
ただ、ストーリー展開におけるドラマチックさに関していえば、「メタルギアソリッド」に及ばない部分もあると思う。好敵手や味方役との絡みはそれほど前面に押し出されていないし、物語性という点では「Splinter Cell」はあっさりしている。もっともクールな主人公オヤジ、サムにしてみれば、この作品で語られているミッションなんてただの仕事の1つでしかなかったというところなのかもしれないが。
(C) 2002 Ubi Soft、 Inc. All rights reserved. Ubi Soft Entertainment and the Ubi Soft logo are registered trademarks of Ubi Soft、 Inc. Splinter Cell is a trademark of Ubi Soft Entertainment、 Inc. All Rights Reserved. All other trademarks are the property of their respective owners Xbox is a trademark of Microsoft Corporation in the United States and/or other countries. Unreal Engine is a trademark of Epic Games Inc
□「Splinter Cell」公式ホームページ http://www.splintercell.com/ □関連情報 【2003年2月18日】「Tom Clancy's Splinter Cell」Playable Demo http://game.watch.impress.co.jp/docs/20030218/demo0218.htm 【2002年4月19日】Ubi、「Tom Clancy's Splinter Cell」をXbox、PC向けに発表 サイバーテロに対抗するスニーキング系アクションゲーム http://game.watch.impress.co.jp/docs/20020419/ubisoft.htm (2002年4月2日)
[Reported by トライゼット西川善司]
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