★ 開発者 特別インタビュー ★

心の傷と戦う異色のストーリー
「アリス イン ナイトメア 完全日本語版」

【アメリカン・マギー氏】

【ゲームの内容】

 火事で両親を失い精神的な傷を負った主人公アリスが、心の傷を象徴したかのような変わり果てた不思議の国で、立ち直るために数々の謎を解き、敵を倒していくアクション・ホラー



 今回は、エレクトロニック・アーツ・スクウェアが1月25日に発売を予定しているWindows版アクションアドベンチャー「アリス イン ナイトメア」の開発者、アメリカン・マギー氏にお話を伺った。どんなゲームなのかはもとより、ゲーム作りのバックグラウンド、そしてゲームと暴力表現といった深い話まで伺ってきた。



■ 「アリス イン ナイトメア」は3冊目のアリス

 まずは「アリス イン ナイトメア (以下“アリス”) 」とはどのようなゲームなのでしょうか?

アメリカン・マギー氏(マギー) “アリス”は「不思議の国のアリス」、「鏡の国のアリス」のあと、両親を火事で亡くしてしまい、精神的に疲れてしまいます。結局は10年間、病院に入院し、自分の殻に閉じこもってしまうのですが、今回の“アリス”の中では彼女が心理的な問題点を一つ一つ解決していくということがメインテーマとなります。
 ですから、今回登場する“不思議の国”は彼女の頭の中にあり、登場するキャラクタはオリジナルのキャラクタをベースにしていますが、彼女の心の問題点を象徴しておりアレンジされています。例えば5つのステージにはそれぞれボスが登場しますが、それらはアリスの感情を表わしていて、どうやって倒していくかを考えなければならないんです。

 彼女の置かれた状況を説明したオープニングムービーが終わるとゲームが始まります。最初は、白ウサギを追いかけることからゲームはスタートします。最初のステージはゲームのイントロ部分となっていて、チュートリアルのような意味を持ち、なにをどうすればいいかがわかるようになっています。チュートリアルが終われば、なにをしなければならないかがわかりゲームを進めていくこととなります。
 そして、プレイしているうちにいろいろな武器が手に入り、使用できるようになります。ナイフのような武器も登場しますが、ほとんどの武器はおもちゃがベースになっていて、パワーアップしていくことになります。アリスの特長の一つに、これまでにない武器の登場も上げられると思います。

 アクションが苦手な人や初心者のためにも、わかりやすい操作系を用意しました。例えばジャンプしたとき着地場所に足形のマークを表示できるほか、サイトスコープのような照準も出すことが可能です (設定で表示しないことも可能) 。こういった操作系のほかにも、4つのレベル (難易度設定) を用意しています。レベルを変更することで、ステージ内の仕掛けが簡単になってしまう場合もあります。

 ステージの構成ですが、各ステージともガラッと趣が違うものとなっています。でも、ストーリー的に突拍子もないものではなく、違和感のないステージとなっています。さらに、基本的には3Dアクションシューティング「QUAKE」のシステムですが (エンジンはQUAKE IIIを使用) 、ステージによっては水中の中でずっと亀を追っていき追いつくと特別なパワーがもらえるような構成になっている場面も登場します。このステージなどは、操作系も変わってしまいます (トゥームレイダーに近い雰囲気) 。ユーザーには違ったプレイ感を味わってもらい新たな達成感を感じて欲しいと思いますし、飽きさせない作りになっています。
 また、この世界はアリスの精神世界ですから、敵からやられるとメンタリティが弱まります。その時はステージに点在する三角のオプションを取ることで回復します。ちなみに“チェシャ猫”はゲームの始まりから終わりまでどこでも呼び出すことができ、一種のHelp機能のように武器の使い方や謎解きのヒントなど、手取り足取り教えてくれます。

 どのステージも美しく大がかりなエフェクトがかかっていますが、マシンスペックはどの程度要求されるのでしょう

マギー氏 最低動作環境は、 Pentium II 400MHz以上、64MB以上、4倍速以上のCD-ROM/DVD-ROMドライブとなります。ただ、3Dグラフィックアクセラレータは必須となります。

 多くのゲームは最初のステージだけ綺麗であとはあまり変わらないといったゲームが多いのですが、アリスの場合は進めば進むほどスゴクなるように演出されています。

 かなり豊富にテクスチャなどが使用されていますが、プレイステーション2などのコンシューマゲーム機ではこういったタイプのゲームの制作は不可能でしょうか?

マギー氏 まだ、誰も作っていないだけでポテンシャルはあると思います。個人的にはハードウェアの制限などいろいろな制約が少ないところでゲームの制作を行なっていますが、コンシューマ機はインターフェイスやハードウェアの制約が発生する分野なので、その分野でどのようなクリエイティブな仕事ができるかちょっと興味がありますね。

システム画面の背景は入院中のアリス。彼女を救えるのはプレーヤーだけ はじめに追っかける“白ウサギ”。やはり少々ゆがんでいる 独特のデザインであるボスキャラ。アリスの心の傷が象徴されている


■ なぜアリスなのか?

ゲームをしながら説明してくれたマギー氏
 今回どのような経緯で「アリス」を制作されたのですか

マギー氏 私は今回、クリエイティブディレクタ (日本で言うところのゲームデザイナー) を担当し、グラフィックデザイン、サウンドデザインなど全ての意味でゲームを統轄しています。1年半くらい作っていますが、SF調で同じ様なキャラクタ、同じ様な世界観の現状のゲーム市場にたくさんあるゲームを変えたいと思い、今回のゲームを制作しました。
 ですから、“アリス”では今までのゲームには無いようなキャラクタの使い方、世界観をベースに作っています。でも一番重要なのはストーリーで、「不思議の国のアリス」、「鏡の国のアリス」に続く3冊目の本があったらどんなストーリーになっていただろうと思い作りました。

 「アリス」を作る上で影響を受けたゲームや映画があれば教えて下さい

マギー氏 アートディレクションという意味ではティム・バートン (バットマン、シザーハンズ、スリーピー・ホロウといった映画の監督) の影響が大きいですね。コミックアーティストの中にも絵柄的に影響を受けたものがあります。でも、個人的な影響もあると思うんですが、一番重要なのはオリジナルのアリスですね。オリジナルのアリスは皆が思うよりもっと暗い世界観だったはずなんです。ディズニーの映画が明るい作品なので明るい話だと思われていますが、実際は違います。そういった意味から今回のスタッフにはディズニー版のアリスを観ないように通達したくらいです。

 なぜ、オリジナルの世界ではなく「アリス」というすでに存在する世界観を選んだのですか?

マギー氏 それは、アリスといえば世界中で誰もが知っているキャラクタだと言うことです。キャラクタを説明する必要がなく、アレンジした世界を展開できます。もしオリジナルのキャラクタを使った場合、それがどういったバックボーンで生まれたのか説明しなければなりません。
 また、アリスも登場するキャラクタもどこかで見たことがあるキャラクタなので、逆に少しでも違うと妙な違和感を覚えたりして、プレーヤーの経験が豊富なほど違った効果も生み出すことになります。

 かなり独創的なゲームで、多くのアイディアが投入されていますが、全てを実現できたわけではないと思います。もうすこし改善したいといったアイディアがあればお聞かせ願いたいのですが、

マギー氏 そうですね。たとえばアリスに壁や天井を歩かせて、重力に逆らった表現というのを実現したかったのですが、今回は技術的に不可能でした。そう言ったことは他の機会に実現できればと思います。

 5月に開催されたE3でスティーブン・スピルバーグが“アリス”のブースに立ち寄ってそうですが、どのような感想を言っていましたか?

マギー氏 スピルバーグの息子さんが“アリス”のホームページを見ていて「E3に行ったら“アリス”を絶対にチェックしてきたらいいよ」と言っていたらしいんです。彼は15分くらいデモを見て「これは本来のアリスの映像を再現した作品としては最高のものだろう。もし、ルイス・キャロルが生きていたら大変喜ぶだろう」とコメントしてくれました。

 マギー氏は音楽がお好きだと聞いたのですが、なぜ、自分で音楽を担当しなかったのですか?

マギー氏 音楽やデザインなどを担当した場合、そのことにかかりっきりになってしまいます。それらの作業はプロフェッショナルな人に頼んで自分がディレクションをしたほうが、格段に効率的です。 (プロが仕事するので) クオリティも高まると思います。

 サントラなどで発売する予定はないのですか?

マギー氏 米国ではゲームの中に登場する台詞などもサンプリングし、CDを聞くだけでゲームの面白さが体験できるように構成したサントラが発売される予定です (日本での発売は未定) 。


■ ゲーム制作者として暴力表現をどう思っているのか?

 今回、“アリス”を見せていただきましたが、過激な描写も見受けられました。ゲームに熱中した少年が殺人を犯したりする一方で、過激な描写を無くすことが最大の解決方法であると主張する人もいます。ゲーム制作者としてこの問題にどのように対処すべきだと考えていらっしゃいますか?

マギー氏 私に関して言えば、理由もなく、バイオレンスのためだけにバイオレンスな描写を行なうということは絶対にしません (理由もなくバイオレンスを楽しむためだけの過激な描写は行なわない) 。“アリス”に関して言えば、自分の心の問題を解決するためにどうしても必要な表現だと思っています。

 米国では聖書を崇拝するカルト宗教の信者が教えに従い殺人を犯しても、その人が悪いのであって聖書が悪いとは考えません。それなのにゲームの場合は「ゲームに従って殺した」と言わなくても、ゲームをやっていたという事実だけで殺人と結びついてしまう。問題はその人個人に存在するのに、それをゲームのせいにしすぎているという風潮を感じます。ゲームが最もわかりやすいターゲットされているんです。

 一方、id Softwareで仕事をしていたときのことですが、警察やFBI、学校の先生や病院などから、「少年達がゲームをプレイすることで発散し、自分自身の問題を解決している。そういった効果がある」と賞賛し、我々に報告している例もあります。そういった2つの面があるんです。もっと究極を言えば、作っている私がそんなに悪人なのかということです。

途中、ムービーが挿入されドラマを盛り上げる 「QUAKE III」のようにただ撃ちまくるだけではない。時には水中に潜り、亀を追いかけなければならない こちらはチェスのシーン。アリスはチェスのコマとなり歩を進めていく


■ 次回作は……

 大変アリスの世界観を気に入っておられますが、今回ゲームの制作が終了したことで、アリスに取って代わるような興味の対象は生まれましたか?

マギー氏 あるんですが、次回作のヒントになるのでちょっと言えません (笑) 。

 今、ゲーム業界はストーリーを追い求めるよりもネットワークで他人と対戦することに面白さを見いだしているように感じます。今回ストーリー展開を重視したゲームを発売されましたが、なぜネットワーク対戦ではなくストーリー展開を優先されたのですか?

マギー氏 ネットワーク対戦ゲームとシングルのゲームでは目的が違うため作り方が全く違います。その違うゲームを1つのパッケージに詰め込み発売するのは問題があります。もしネットワークゲームを盛り込むならもう一つ開発ラインを用意しなければならないでしょう。そういった意味からも今回はシングルモードに力を注ぎました。

 次回開発を予定しているのはネットワーク対戦専用ゲームですが、アーケードの要素が強くなると思います。その開発期間を次々開発のゲームの準備期間にあてるつもりです。アリスの準備期間が3カ月程度ですので、かなり力が入っていることがわかると思います。そちらはシングルプレイもネットワーク対戦もできるようになるのではないかと考えています。

 最後に日本のファンに一言お願いします

マギー氏 日本にはオリジナルのアリスのファンがたくさんいるし、PCゲームを楽しんでいるユーザーもたくさんいると思います。私は日本が大好きなので、ぜひこのゲームを気に入って楽しんで欲しいですね。

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□エレクトロニック・アーツ・スクウェアのホームページ
http://www.japan.ea.com/
□「アリス イン ナイトメア 完全日本語版」の製品紹介ページ
http://www.japan.ea.com/alice/main.html
□関連記事
【12月1日】独特の世界観が魅力のサイコホラー・アクション「アリス イン ナイトメア」 (PC Watch)
http://pc.watch.impress.co.jp/docs/article/20001201/ea.htm

(2000年12月26日)

[Reported by 船津稔]


ウォッチ編集部内GAME Watch担当 game-watch@impress.co.jp

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